JASRACを「脱退」したわけじゃない

【阿南】そう考えると、「作家の収入を増大させるためには、利用者も増やし、利益を出してもらわなくてはいけない」という目線も持った方が良いだろう、そんな気持ちでエイベックスが仲介を行っています。先ほど申し上げたように、あくまで音楽出版社「エイベックス・ミュージック・パブリッシング」としての立場であって、メーカー(レコード会社のエイベックス・ミュージック・クリエイティブ)としてではないのです。「大手レコード会社が著作権管理事業に参入」と書かれてしまうと、使用料を払いたくないから自分たちで管理しようとしているという間違った見方が生まれてしまいます。そうではなくて、出版社の立場から合理的な、つまり利用を拡大するための利用の在り方や、柔軟な利用料体系を構築したいということなんです。

イーライセンス 阿南雅浩社長
――理念はとてもよく分かりました。一方で作家にとって、中長期でみれば利益が最大化されるというのが、理念だけでなく何らかの形、具体的なシミュレーションとして示されるとより伝わりやすいのかも知れません。

【荒川】残念ながら、今は「統合に向けた協議をしている」という段階ですので、統合が実現した後で、事業計画を示していく中でご提示できるものだと思います。阿南さんともイメージは非常に近いはずではありますが、まだ具体的な数字をお話しできる段階ではありません。

【阿南】端的に言えば、いま作家・音楽出版社が得ているお金よりも1%でも沢山還元できる仕組みであるし、レコード会社や配信事業者が支払っているコスト=著作権使用料を1%でも安くする、という理念は共通しています。コストが下がれば宣伝や制作費に再投資し、音楽の活性化につながるわけですからね。管理手数料を圧縮していくための工夫や、著作物の利用活性化させるか、といった2つの命題を解決していく必要があります。

そういった数字のシミュレーション、すなわちどういう使用料規程を統合して作りあげるかが、それを示すものになるはずですが、そこは乞うご期待、ですね(笑)。

――エイベックスの楽曲の信託をJASRACから新会社に移管することで、新しい枠組みがインパクトと合理性を持つだけに十分なシェアは確保される、と見てよいのでしょうか?

【阿南】そこはまだまだですね。

【荒川】そうですね現時点では、数の上では足りません。JASRACが300数十万曲管理していて、JRCとイーライセンスを合わせても10万曲程度。ボリューム感は300対10。しかし、管理割合からいうと、新曲やヒット曲が占める割合は私たちのほうが高いかもしれません。そう考えると、私たちは過去の膨大なライブラリーは管理できないかも知れません。しかし、これからマーケットを作って行く新しい曲が、私たちが主に管理する分野です、という流れが現在よりも更に明確になってくると、景色は違ってくると思います。

【阿南】一石を投じることで、JASRACにも改革を進めて欲しい、というのが偽らざる気持ちです。彼らのシェアを切り崩そうという発想ではなく、競争環境を創り上げることで、音楽の利活用の機会を高めて、市場のパイを大きくしていきましょう、ということです。放送や演奏における包括契約の在り方など、利用者側の業界団体、JASRACも含めた管理団体が一緒に議論すべきこともまだまだ多いのです。

――少なくとも「JASRAC離脱」という報じられ方が本質ではない、ということはよく分かりました(笑)。統合後の展開にも期待したいと思います。
著者プロフィール:まつもとあつし
ITベンチャー・出版社・広告代理店などを経て、現在フリーランスのジャーナリスト・コンテンツプロデューサー。ASCII.JP・ ITmedia・ダ・ヴィンチ・毎日新聞経済プレミアなどに寄稿、連載を持つ。著書に「知的生産の技術とセンス」(マイナビ/@mehoriとの共著) 「ソーシャルゲームのすごい仕組み」(アスキー新書)など多数。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進める。http://atsushi-matsumoto.jp/
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