細分化された音楽の権利

――ネット上のコメントなどを見ると、JASRACを悪者のように語る言説も見受けられますが、本来の目的は膨大・煩雑な著作権管理を集約することで、作品の円滑な利活用を図ろうというもので、かつ、2001年以降はJASRAC以外の事業者も参入が可能になったわけですが、どこにまだ課題が残されていたのでしょう?

【荒川】その話の前提として、音楽の権利が細分化されている点を皆さんにご理解頂く必要があります。この目的に応じて細分化された権利は「支分権」と呼ばれているんです。

※この区分はJASRACが管理事業法への移行の際、契約約款で示したもの。新規参入事業者もこの区分を踏襲している

この図における網掛けの部分がJRCがこれまで管理してきた権利です。逆に言えば、それ以外は、著作権者はJASRACに信託しています。スピッツの「チェリー」を例に挙げると、以下のように同じ楽曲を別の会社が別のコードで管理しているわけです。

例:スピッツ『チェリー』(作詞:草野正宗、作曲:草野正宗)
2.録音権、9.放送・有線放送、10.インタラクティブ配信…JRCに委託(JRC作品コード 0001302JRC)
1.演奏権、3.貸与権、4.出版権、11.業務用通信カラオケ…JASRACに信託(JASRAC作品コード 03860655)

今回報じられたような「離脱」というのは従って正確ではなく、今まで全ての権利(支分権)をJASRACに預けていた楽曲を、この網掛け部分について経営統合後の新会社で扱うようにしようという話なんです。興行、つまりコンサートでの演奏や、カラオケやカフェでかけられているBGMがその範囲となる演奏権は、私たちがこれまで管理してきていない以上、おそらくJASRACにその管理は残りますし。エイベックスさんが仲人となったことで、所属アーティストの数・顔ぶれといった規模感で確かにインパクトはあるのですが。

【阿南】この支分権の区分も、あくまでJASRACがこれまでの経緯から定めた、いわばローカルルールです。例えば、貸与権のところをCDとDVDに分けて、我々はCDはやります、とか、演奏権もライヴコンサートの部分はやります、といった工夫の余地は本来あるはずなんですよね。本当はそのようなところに取り組んでいきたいのですが、JASRACのシェアが非常に大きく2社のシェアは全体の2%では発言力もその割合でしかない。それが現実だ、ということです。

ただ、2社が一緒になれば、守備範囲をさらに演奏権や貸与権・出版権にも拡げやすくなります。また後に述べるように、実際によく利用されている楽曲のシェアという見方をすると2%以上のポテンシャルはあるのです。将来的には全部カバーしたいと思っています。