戦略は自分が決めるが、本人に最終決定させる
そうやって芸人本位を貫く一方、どうやって売り出すかの戦略は、ほとんど本人と相談せず1人で決めていたという。
たとえば若手だったキングコングは、今までの芸人とは違う種類の“華”があったため、音楽番組の司会に売り込んだ。大阪でくすぶっていた南海キャンディーズは言語感覚とレスポンスの速さが東京に合うと考え、東京の番組のディレクターに引きあわせた。
「『この仕事やろうと思ってるんです』と話したことが空振りで終わってしまい、落胆させる可能性もあります。それに『なぜこの仕事があなたに必要なのか』『この仕事が絶対に得』と芸人さんに説明する自信があったので、事前に相談はしませんでしたね」
現場では「潮の流れを作らない」ことにこだわりながら、潮流に影響を与える全体の動向は、自分でハンドリングする。逆に言えば大枠を設定した後は、気持ちよく動いてもらうことだけに注力するということだ。それは普段芸人とコミュニケーションを取りながら仕事を観察し、得手不得手を把握していたからこそ、できる行動だった。
はたしてマネージャーには必要な資質とは何か。社員時代、片山氏は先輩から「イタさとマメさが大事」と教わったという。
「イタさとは、空気を読まず突飛な行動をするようなこと。たとえばテレビ局で大物タレントをたまたま見かけて、会ったこともないのに『今度仕事させてください』と営業する人はイタい。でもそこで人生変わることもあるわけで、その一歩踏み込める行動力がマネージャーには求められます。
マメさは、信頼を築くのに絶対必要ですね。連絡を頻繁に取って、現場にもできるかぎり足を運ぶ。芸人さんは寂しがりやで、常に不安ですから、『俺のこと、ほったらかしかい!』が一番しんどい。そこで誰かが見てくれたら前を向けると思うんです。マネージャーって何もできない生き物ですから、せめてもの『気にしてます』というメッセージは発信しないと」
片山氏が話の中で数々発した「芸人」という単語。これを「社員」に変換しても通じるだろう。部下が集中している時、自分のタイミングで声をかけない。普段の行動から考えた適材適所を用意して、自由に動いてもらう。時折声をかけて、期待していることを伝える。一般企業でも応用できるはずだ。
最後に、自分の手腕によって売れた芸人の名前を聞いてみた。
「僕の功績という芸人はいません! 売れる芸人は放っておいても売れますから。それは本当、間違いないです」
どこまでも他人本位。それがマネージメントの極意なのかもしれない。