危機が訪れなければ危機感は持てないのか

「うちの社員には危機感がない。どうすれば危機感を持つようになるでしょう」と聞く人がいる。社員に「危機感を持ちなさい」と口で言っても意味はない。それは当人の感性の問題であり、痛くないのに「痛いと感じなさい」と言うようなものだからである。

ある商事会社。月末の夕方、反省会を開く。5人の課長が実績と活動状況を報告する。「目標1000万円に対し売上は800万円に終わりました。旭建設の注文予定が来月回しになってしまったのが響いています。それから吉村君が病気で半月休んだのも影響しています。来月は見込みも多いので、目標達成できると思います。がんばります」

『ザ・鬼上司!』(染谷和巳著・プレジデント社)

毎月、課長たちの似たり寄ったりの反省を聞いていて、社長は「こんなことでいいのか」と疑問を感じた。課長たちは本当に反省しているのだろうか。来月も目標が達成できず、その理由をもっともらしく述べて終わるのは目に見えている。

管理者も社員も、誰一人危機感を持っていない。どうすれば危機感を持たせることができるだろう……社長は考えた。会社が危機に陥れば、自然に危機感が強くなる。たとえば、不況やライバル会社の攻勢等によって環境が悪化した。ミスや事故で問題が起き、その処理、解決が遅れて会社が傾く損害をこうむった。あるいは新技術、新知識が発生し、それをモノにしなければ取り残される事態になった。危機の到来である。売れない、返品が増えるなど悪化が顕著である。原因もほぼわかっている。管理者はもとより一般社員も会社がよくないことを知っている。危機感を抱かない人はいない。

全員、目の色が変わる。それまでのんびりしていた社員の態度がうそのようだ。危機を乗り切るために全社一丸となって当たる。会社に活力が満ちる。

これらは外からの影響で危機に陥るケースで「他力本願」である。いつ訪れるかわからない。自ら求め得た危機ではない。