次の30年を見越した挑戦

――経営史をまとめたことで希望学の調査としては一区切りついたことと思います。中村教授は、今後セーレンにどのように注目されていきますか。

【中村】これからも定点観測していきたいと思っています。20年後、30年後という長いスパンで見たときに、現在行われている様々な改革がどのような結果をもたらすのか、非常に強い関心があります。創業150年を迎えたセーレンはどんな会社になっているだろうか。そう考えると面白いですね。私は、まったく違う会社になっているのではないかと思います。繊維の会社ではなくなっているかもしれませんね。

【川田】はい、まったく違う会社を目指しています。我々を取り巻く環境はスピーディに変わっていますから、少しの油断も禁物です。自動車の自動運転が当たり前になり、自動車が衝突しない時代になれば、エアバッグも必要なくなりますし、車体も鋼板である必要もなくなります。これからは人工知能やロボット技術も進んでいくでしょう。そういった変化をいち早く捉えて、我々自身も進化していかなければなりません。

【中村】企業が進化し続けていくためには、人材育成も重要です。以前、セーレンでは、幹部候補生に対して「20年後、30年後のセーレン像」を考える課題を出されるなど、次世代リーダーの育成に努めていらっしゃいましたが、最近はどうですか?

【川田】最近はなかなか時間が取れず、そこまで手が回っていません。

【中村】普段は考えないような長期ビジョンを考えることは、リーダーとして育っていくうえで重要な試みだと思います。20年後、30年後の会社がイメージできなければ、希望の共有も目指せませんから。

【川田】企業は30年ごとに変わってきています。我々も企業改革を始めておよそ30年が経ち、次のステージに移るべき時期が来ています。我々の次の挑戦は、BtoCです。アパレルのパーソナルオーダーをはじめとする市場ダイレクト化を進めていきます。情報化が進む世の中の環境変化に合わせて、次の30年を見越したチャレンジを始めているところです。

川田 達男(かわだ・たつお)
セーレン会長兼最高経営責任者
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年より最高執行責任者(COO)兼務。05年より最高経営責任者(CEO)兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。14年より現職。セーレン http://www.seiren.com/
(川田達男、中村尚史=談 前田はるみ=構成)
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