営業のほとんどが技術畑出身

私が社長に就任した1987年、「非衣料・非繊維」分野への事業多角化を経営戦略の一つに掲げました。以前は「繊維産業=衣料」が業界の常識であり、セーレンも、長年にわたり繊維の委託染色加工を生業としてきました。ところが、オイルショックを境に産業の斜陽化が進むと、委託染色加工の業績はどんどん悪化。衣料にこだわり、取引先から言われた染色加工だけをやっていては、これからの厳しい環境を生き残れないと考えたのです。

とはいえ、ずっと繊維分野でやってきた私たちは、繊維しか知りません。私たちのコアコンピタンス、つまり成長の遺伝子として何があるだろうか。そのような視点で全社を眺めてみると、繊維分野で磨き上げてきた多種多様な技術やノウハウが社内に蓄積されていることに気づきました。染色加工技術、膜加工技術、たんぱく質工学、色材基礎技術、ほかにもいろいろあります。

これらの技術シーズを市場ニーズと結びつけ、新規事業を拡大していくことにしたのです。多角化の5つのベクトルとして、「自動車」「メディカル」「インテリア・ハウジング」「エレクトロニクス」「ハイファッション」を設定しました。

自分たちが持つ技術シーズを、いかにして市場ニーズと結びつけ製品化するのか。私たちの場合、「この技術はこのように使えるのではないか」とシーズから発想するケースと、お客さまから「お宅の技術でこのような製品はつくれないか」と相談を受けることからニーズが広がるケースが半々ずつです。そして今や、お客さまからの問い合わせの約6割は展示会がきっかけです。私たちは、エレクトロニクス関連、メディカル関連、自動車関連など、業界や国内外問わずさまざまな展示会に出展しています。

セーレンでは、技術者自身が展示会場に立ち、お客さまから直接ニーズをお伺いしています。技術者だからといって、研究室で研究だけに専念している技術者は一人もいません。また営業担当者も、ただ製品を売るだけでなく、お客さまのニーズを把握し製品開発に生かすには、技術のことも理解している必要があります。ですから、当社の営業のほとんどが技術畑出身です。

技術者と営業が共に、現場とお客さまの両方の状況を把握しながら、シーズとニーズをつなげていく。自分たちの埋もれた技術を有効活用し、新たな製品を開発するうえで、このやり方はとても効果的だと感じています。