現場の問題をどう顕在化させるか
前回の連載では、赤字経営が続いていた会社を立て直すため、1990年代に導入した「5ゲン主義」についてお話ししました(http://president.jp/articles/-/14461)。5ゲン主義とは、「現場」「現物」「現実」の三現主義に、「原理」「原則」を加えたもので、現場を担当する一人ひとりが付加価値を生み出す仕事をするための基本的な考え方です。今回は、5ゲン主義を具現化するために始めた「整流」活動についてお話ししたいと思います。
整流は、セーレンの理想の姿と現実のギャップを少しずつ埋めながら、会社の流れを整えていくものです。例えば生産現場では、当時すでにIT化に積極的に取り組んでおり、機械の能力や生地の厚さ、染料の温度などの条件をコンピュータに入力すれば、理想的な生産計画を組み立てることができました。ある機械を使ってある生地を染める場合、染色に2時間30分、生地の取り出しに5分、セッティングに10分かかるとすれば、1日でこれだけの生地を染色できる、ということが計算できるわけです。
しかし、これはあくまで理想ですから、染料の温度や量に少しでもバラツキがあれば、計画通りにはいきません。生産現場ではこうしたバラツキは必ず起きるため、理想の計画どおりに生産できることはまずありません。仮に理想の計画に対して86%の達成度なら、残り14%に問題があることになります。これらの問題を顕在化させ、理想の状態に近づけていくのが整流という活動です。
ただし、問題を顕在化しようとしても、現場から問題はなかなか上がってきませんでした。問題点を報告しようものなら、叱られたり責任を問われたりするのは現場の担当者です。また、上司も悪い報告は聞きたくないので、厳しい表情で報告を受けることになります。これではなおさら、誰も問題を上げようとは思いません。もし「うちの部署は部下との意思疎通がしっかりできているので、悪い報告も上がってきます」などと胸を張る上司がいたなら、その人の認識は大いに間違っていると言わざるを得ないでしょう。
くり返しになりますが、何の対策も取らずに部下から問題点が上がってくることはないのです。そうした前提で、どうやって問題を顕在化させるのか。そこで私たちが取り入れた仕組みが、「見つけましたね運動」でした。
仕事における問題は、どんな些細なことでも提案してほしいと社員に呼びかけました。さらに、問題1点につき300円の報酬を制度化したのです。すると――、じつにたくさんの問題が報告されるようになりましたね。今もこの制度は継続していますが、年間2万件くらい出てきます。一人当たり、半期でおよそ12件。自分たちの会社にはこんなに問題が山積しているのか、と衝撃を受けるほどです。これらの問題点に対して、管理職が中心となって解決策を考え、一つずつ改善していくことにしたのです。