異端の存在を許容できる組織

――中村教授は、大学の授業でもセーレンの事例を取り上げていらっしゃいます。学生さんの反応はいかがですか。

【中村】私が授業で、川田会長がどのようにして企業改革を進めてきたのか、セーレンがどのように希望の共有を実現しようとしているのかという話をすると、まず圧倒的に多いのは「すごい!」という反応です。「川田会長は若い頃に左遷されながらなぜ挫折しなかったのか、自分だったら会社を辞めてしまうだろう」という疑問です。もう一方で、「セーレンの企業改革の事例はすごいけれど、特殊な事例なんじゃないか」という感想もあります。

――「特殊な事例ではないか」という質問にはどう答えられたのですか。

【中村】ドラスティックに企業体質を変えていったという点では、特殊かもしれません。一方で、どの企業にも普遍的な要素もあります。例えば、企業が危機に陥ったときに、そのまま倒れるのか、何らかの形で持ち直すのかは、社内に異端な存在がいるかどうかがカギになる気がします。つまり、みんなが同じ方向を向いていると、一斉に倒れてしまうということです。

セーレンの場合、染色加工が本流だった社内で、自動車内装材など新規事業を始める川田会長のような存在がいなければ、本流が傾いたとき会社は倒れていたでしょう。大事なことは、異端な存在を組織内に抱えておけるかどうか。業績が好調なときは扱いにくい存在かもしれませんが、環境が変化したときに、異端の人が救世主になるかもしれない。これはどの企業にも共通することだと思います。

【川田】中村教授からは、「内なるアウトサイダー」という称号をいただきました(笑)。

――社内に異端の存在が多いと、希望を共有することが難しくならないでしょうか。

【中村】それは一理あるかもしれません。ただ、それでも全社員が共通して望んでいることがあるはずです。会社に潰れてほしくはないということです。これは川田会長から教わったことですが、社員が仕事を続けることができ、生活を維持できることも、彼らにとっては重要な希望であると。つまり、社員の雇用を守ることが、根源的な希望の共有につながるというわけです。細かな戦略の部分では異論があったとしても、何のためにこの事業をやっているのか、という点では共有できるのではないかと思います。