介護はある日突然始まる。
脳梗塞、心筋症などで緊急入院した老親が一命を取り留めたことに安堵している暇もないくらい、次々と懸案事項が襲ってくる。退院後の居場所をどこに定めるのか、日々の暮らしは誰が面倒を看るのか、リハビリは必要なのか。考えをめぐらせているうちに時間ばかりが過ぎ、何も決まらないうちに老親が退院の日を迎えてしまう。こうなってからでは手遅れである。
肉親に介護の必要な者が1人出るだけで家族全員の暮らしが激変する。在宅で介護するとなれば24時間365日、要介護者を中心に考えなければならない。地方のふるさとで一人暮らしをしている老親ならば、誰が面倒を看るのかさえ決めることができない。右往左往して絶望的な気持ちになるのが介護とのファーストコンタクトである。
最初に取り組むべきことは、老親の入院が始まった段階で、介護保険を利用するための申請手続きを行うこと。申請から介護認定を受けるまでに約1カ月間の時間が必要なので、できるだけ早く手続きを開始したい。介護保険は要支援1、2と要介護1~5までの7段階で介護度が認定される。介護度が高くなればそれだけ重症ということになる。脳梗塞や心筋症の場合、退院後も介護の手間がかかるので、どんなに症状が軽くとも要介護3以上の認定が受けられる。
介護度3であれば月額の介護保険利用限度額は26万7500円、介護度5ならば35万8300円。この範囲内であれば、いくつかの介護サービスを組み合わせて利用することができ、サービスにかかる自己負担分は総額の1割でまかなうことができる。介護の必要な老親を抱えている家族の多くが、この制度を最大限利用して何とか介護をしているのが現状である。
しかし、介護にかかる総額を考えた場合、保険内でまかなえる事柄はかなり限定されている。介護保険は、自動車の自賠責保険にすぎない。施設で介護を受ける場合、食事費は別途に考える必要があり、自宅で介護するためには、専用のベッドや簡易トイレの準備、必要なところに手すりをつけ、段差の解消工事も必要になる。
特別養護老人ホームなどの公的な高齢者施設は、コスト的には月額の自己負担が3万円から7万円程度の範囲で、これに食費やおむつ代、雑費を加えても10万円から15万円以内で対応が可能。この金額も決して安くはないが、さらに、入居待ちの列が連なっているのが現状で、待ち時間は約2年というのが相場。介護に直面した場合の緊急の解決策にはならない。ならば、待ち時間のない民間の有料老人ホームを探すことになるが、入居一時金は安くても100万円、平均で1500万円、高額な施設では3000万円以上が当たり前で億の入居金が必要な施設もある。こうした施設でも月々の入居費用が必要で20万円近くの経費がかかるため、よほど資金的に余裕がない限り簡単に決断できない。
介護が必要になったとき、どこで、誰が、どのようにして介護するか。自分たちが用意できる月額の費用はいくらかを把握するところから始める。このとき、家族全員で話し合うことが何よりも大切。金は出すが口は出さない。金は出せないが体を動かす。介護にかかわる人たちの役割分担を決める。費用の目安をあえて算出すれば、月額5万円でやりくりして年間60万円、これに初期費用を加えると最低でも約100万円が必要となる。これさえ決めれば、介護は確実に動き出す。