一方、患者の不安な心理につけこんで、意味のない過剰診療が行われるケースもある。帝京大学医学部外科の新見正則医師は、次のように指摘する。

「医療界も市場原理で動いています。顧客、つまり患者を増やすには、本当は病気ではないものを病気にして、不安を煽るのが手っ取り早い」

典型例としてあげるのはメタボだ。

「メタボと診断されると血圧を下げる薬や高脂血症の薬が処方されることがありますが、メタボ自体は病気ではないし、高血圧も病気とはいえません。基本的に薬は副作用があり、最小限に抑えるべきです。にもかかわらず、早く予防しないとたいへんなことになると煽り、たくさんの薬を飲ませようとしている」

同じ誤診でも、軽い病気だと早とちりして危険な病気を見逃すケースと、たいしたことがないものを意図的に大げさにとらえて過剰診療するケースでは、方向性が逆だ。しかし、どちらも「早期発見、早期治療が大切」という風潮から生まれている点は興味深い。誤診から身を守るためには、患者側が早期発見、早期治療に振り回されすぎないことが大切なのかもしれない。

医師も判断がつけにくい症例をさっそくご紹介しよう。

コメンテーター(敬称略)
日本赤十字医療センター副院長 血液内科部長 鈴木憲史
日本赤十字医療センター血液内科 壹岐聖子、池田昌弘、飯塚聡介
帝京大学医学部外科 新見正則

頭・顔編▽「白髪が増える」超危険な原因とは

▼ボケてきた→認知症?
実は…… 甲状腺機能低下症
「認知症の疑いありと家族に連れてこられた患者さんがいた。たしかに忘れっぽく、顔がむくみ、目がボーッとしているように見える。しかし、詳しく血液検査をしたら甲状腺の機能が低下しているだけと判明。甲状腺ホルモンを飲んで、すっかり元気になった」(鈴木)

▼白髪が増えた→年のせい?
実は……悪性貧血
「白髪は加齢だけが原因ではない。急に白髪が増え、足もしびれるという50代女性を検査したところ、赤血球一個一個が大きい悪性貧血だと判明。そのままでは死に至ることもあるが、ビタミンB12の注射一発でよくなる。いまでは髪もかなり黒くなった」(鈴木)