自分が一代で財をなしたかというと、微妙ですね。じつは私の父は楽器商社であるモリダイラ楽器の創業者。ただ、援助を一切受けずに独立したので、世間でいう二代目には当てはまらないかもしれません。
経営者の息子でも、贅沢とは無縁の生活でした。父は子供にお金を持たせると堕落すると考えていたようで、お小遣いは小学生のときは1日10円のみ。中学になって学校の帰りにみんなでアイスを食べるときも、1人で我慢していたことを思い出します。いまだにお金を使うことに罪悪感を抱いてしまうのは、当時の影響でしょう。
大学卒業後はコンピュータ周辺機器会社に就職しましたが、父の引退を機にモリダイラ楽器へ転職。親の七光と思われるのは嫌だったので、いままで会社が手がけてこなかった事業に積極的にチャレンジしました。
途中からは、閉鎖する予定だったギター製造会社の社長を兼任しました。かつては飛ぶように売れた自社ブランド「モーリス」のギターも、アメリカ製の高級品と中国製のビギナー向けとの間で中途半端なポジションになり、売り上げ不振に。そこでゼロからブランディングをやり直すことにしました。その結果、平均単価1本7万円だったギターを24万~30万円で販売できるように。再建にめどが立ったので、いい機会だと思って退職しました。
このときに、父から受け継いでいた財産はすべて返上しました。私は父のことを超えたいと思っていたので、裸一貫で創業した父と同じ条件で独立することにこだわっていました。父を超えるために独立するのに、その父から支援を受けていたらおかしいでしょう?