税務会計学の創始者であり、御年89歳を数える富岡氏。かつて中曽根内閣当時、売上税導入に真っ向反対の論陣を張り、その廃案に一役買ったという同氏が「遺言のつもりで書いた」という本書は、グーグルほかグローバル企業の節税手法や富裕層への優遇ぶりを盛り込みつつ、「大企業が法人税を真っ当に支払っていれば、消費増税の必要ナシ」と明快に主張。発売約1カ月で3万部超という勢いだ。
その一因は恐らく本書の帯にある。「ソフトバンクの納税額500万円」という煽り文句に目を奪われる。が、これは同グループの持ち株会社であるソフトバンク単体のもので、同社を含む売上高6.6兆円の巨大コングロマリット全体の納税額ではない。ここをあえて混同させている、というのが本書に批判的な人々の見方だ。一般に完全子会社・関係法人株の配当全額と、それ以外の投資先の配当の50%については、二重課税を避けるために「益金不算入」として課税額から除外される。納税額が少額となるのはそのせいなのでは……。
「そういう疑問は百も承知で、連結・単体を問わず一律に割り出した大企業の法人税額を掲載しました。(ソフトバンク単体の)純利益に対し500万円はやはり少ない」
富岡氏は、この益金不算入じたいに疑問を呈する。
「理想と現実の違いは理解しているつもりです。グループ会社の配当なら課税対象から除外してもいいが、それ以外の投資先の配当を50%除外するのはおかしい。これを放置した結果、経済界の既得権益になってしまいました」
さらに突き詰めると、法人とは実在するものか、擬制=フィクションなのかという原理原則論にゆきつく。益金不算入も含めた現在の法人税制の根幹は、法人擬制説である。
「これだけグローバルに活躍する巨大企業があるのですから、一定以上の規模であれば社会的実在として認識すべき。法人擬制説に拠った今の法人税制はGHQ占領下で定められた過去の遺物です」
こうした受取配当金をはじめとする課税ベースの侵食に加え、税逃れの横行、脱税しても国税の手が回らない。この3点が税制を歪め、赤字財政をつくっていると氏は言う。
「法人税減税ではなく、法人税制の根本的な再建が僕の意見」――この“遺言”をどう聞くべきか。