そもそも著者の子息の上場ベンチャー社長を経由して企画されたという本書だが、「エネルギー偏差値30の私にもわかるように」という担当編集者のひと言が、執筆時の指標となった。
「そもそも日本では、エネルギーについてあまり知らない人がマジョリティなんだと改めて気づきました。今は個々人の専門領域が細分化されている時代ですから、自分のエリアを少しでも外れるともうわからなくなる。だから、メディアの情報を見聞きして『そんなものか』と思い込んでいるのかもしれませんね」
延べ21年に及ぶ海外勤務も含め、三井物産とその系列で40年以上エネルギー関連業務に従事してきた著者の岩瀬氏。エネルギー、特に石油についての国内メディアのミスリードは少なくないという。用語一つ取っても、「埋蔵量」と「資源量」は異なる概念であること、確認埋蔵量と推定埋蔵量、予想埋蔵量の違いといった基礎知識が曖昧なままの記事も見受けられるという。
本書は日本向けのLNG(液化天然ガス)が、市場の三極化ゆえに高額であることや、“シェール革命”の起こりと行く末、そして石油がかつての戦略物資から(有事は別として)普通の商品と化したことに言及。二度のオイルショックで時が止まったかに見える一般の日本人のエネルギー観に転換を迫っている。
高度成長期の71年に入社。香港大学留学、台北支店から帰任して原油取引を担当していた78年、取引先の石油会社原油部長に頼み込んでサウジアラビア国営石油会社のあるアルコバールへ。初の中東行きだった。
「イラン革命の前年だったことをよく覚えています。50度はあった物凄い暑さで、日なたは太陽の光が真っ白。ほんの50メートル先まで歩こうとしても、足が前に出ない。体が拒絶するんです。この地では『太陽は悪、闇は善』なんですね。中東って凄いんだと、本当に衝撃を受けました」
その晩、その気持ちの高ぶりを上司への手紙にしたためた。オイルショック後、いち早く手を挙げて中東でのビジネスを始めた辣腕の上司に、無性に伝えたくなったのだ。
「長い会社員生活の中で、上司にプライベートな手紙を送ったのは、後にも先にもその1回きりでした」
つい先頃、現役引退し、現在は各界の人士を集めた勉強会を主宰。本書も含めて、「伝えたい」という熱さはホンモノのようだ。