論理的・合理的に組み立てられた企業戦略が、なぜ失敗の憂き目に遭うのか。

「それが以前から不思議でした。日本を代表する有名企業の業績が悪化すると、ビジネス誌などが戦略ミスだ、大企業病だと書きますね。でも、企業の首脳陣は、それよりはるか前から何が問題なのかを知っていたはずです」

米国で話題になった経営戦略本などを、多くの日本のビジネスパーソンは一通りは読んでいる。なのに調べてみると、戦略の失敗は、その論理の世界からかけ離れたところで起きている。

行動経済学をはじめ、脳神経科学や心理学といった知見も織り交ぜながら、その理由に迫ったのが本書だ。

ルディー和子(るでぃー・かずこ)
ビジネス評論家、立命館大学大学院経営管理研究科教授。国際基督教大学卒業、上智大学国際部MBA修了。エスティ・ローダー社等を経てマーケティング・コンサルタントとして独立。2003年、第1回ダイレクトマーケティング学会賞受賞。著書に『売り方は類人猿が知っている』ほか多数。

「結局は感情の問題。社内のしがらみや他社へのライバル意識、自分に都合のよいデータ解釈、そういったことが合理的な判断を狂わせたのです」

著者は、米国の化粧品会社エスティ・ローダー社、「タイム誌」を発行するタイム・インクなど外資系企業で、長年マーケティングの責任者を務めた経歴を持つ。

専門はダイレクトマーケティング。外資系企業と日本企業の経営戦略や、マーケティングに対するとらえ方の違いも肌で経験してきた。

「経営戦略に失敗した企業は、ここぞというときに確固とした決断が下せなかったり、中途半端な判断をしてしまったのだと思うのですが、日本の企業トップには決断力に欠ける傾向があるように思います」

かつての高度経済成長期には、中庸路線を採っていればまず失敗はなかった。しかし、経済低迷期の今は、右か左に大きく舵切りをしなければならない場面も出てくる。

経営陣の決断力が弱い、あるいははっきりした決断をしたがらないとすれば「その企業は、まだ成長期の余韻から抜け出せないでいるのではないか」と著者はいう。

「日本の企業は、自社アピールも弱いですね。こういう低迷期こそ、経営者は自社の個性を明確にして、顧客の心理を変えるのは自分だという意気込みが必要。共感してもらうのではなく、共感させるのだという強い意志を持つことです。顧客と一緒に不景気な気分に陥ってしまっては、元も子もありません」

「勇気」という言葉を強調する著者。日本企業よ、勇断を恐れず胸を張れ、と本書は応援しているのである。

(永井 浩=撮影)
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