毎日のように書店に入荷するビジネス書。企業や社長の成功物語が溢れるように並べられる中、静かに、しかし確実に読者を魅了している良書がある。その1冊がグロービス経営大学院著『創業三○○年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』。書名のとおり、「岡谷鋼機」「月桂冠」といった創業300年超の企業を取り上げ、所有と経営、価値観、財務体質などさまざまな角度から“長寿”の秘密に迫る。
「日本は世界でもまれな長寿企業大国です。長きにわたり存続するばかりか、ある程度の事業規模を保ち続ける条件は何か。それを解き明かしたいと考えました」
執筆陣の一人で、監修者でもある田久保善彦氏はこう明かす。老舗の研究なら100年企業でもよさそうだが、なぜ「300年」なのか。
「創業者から直接薫陶を受けた世代が去ったあと、『志』をどう受け継ぐか。これが私たちの主な関心事です。創業100年では、現役役員の中に創業者の謦咳に接した人がいるかもしれず、伝承の仕方を検証するという意味では歴史が浅いと判断しました」
日本の長寿企業を紹介する本はほかにもある。ただ、その論調はややもすると精神論に傾きがち。その中で本書は、具体的なデータをもとに長寿企業の真実に迫っていく。
「伝えたかったのは、300年企業は『何をやっているか』ということ。事実ベースで描写することを心がけました」
当初の読者層は、老舗の後継ぎなど事業承継の当事者たち。だが、存続が重要なのは老舗だけに限らない。
「ベンチャーにも長寿企業の教訓は役立ちます。起業家のみなさんも10冊のうち1冊は、このような本を読んでみてはどうでしょうか」
(永井 浩=撮影)