金融危機以降、大きくは増えていない日本のお金持ち。だがその中身は変わった。富裕層研究の第一人者たちが彼らの素顔を明らかにする。
見直されるオーナー企業
超富裕層が営む事業は多くの場合、資本と経営が一致したオーナー企業の形態をとる。経営トップは代々、世襲である。
「ファミリー・ビジネスとか世襲のオーナー企業というと、現在の日本ではネガティブにとらえられることが多いのですが、実は資本と経営が分離しすぎた大企業型のガバナンスよりも、パフォーマンスに優れている例が多いんです。問題点もありますが、オーナー型の経営はメリットのほうが大きい」
東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授が指摘する。トップに責任と権限が集中し、意思決定が早いオーナー企業は一般の大企業よりも経営において効率的だ。
問題は、その効率的なオーナー型経営をどうやって後継者に引き継ぐかということだ。仮に従業員のなかに傑出した人材がいても、資本を買い取るため銀行やファンドから資金を調達しなければいけないとしたら、それがきっかけで「経営が不安定化するおそれがある」 (柳川氏)。その点、オーナーの子弟が資本を相続すると同時に経営権も引き継ぐとしたら問題は生じにくい。事業の世襲が一般的なのは、ひとつにはそのような側面があるからだ。
オーナー経営を永続させるには、権限が集中することのリスクにも配慮しなければならない。代々続く超富裕層は、世襲において次のような「安全装置」を備えているという。
「長男など特定の人がオーナーの後継者になるとしたら、一族のほかの人たちは一種の大株主集団、あるいはお目付役としてガバナンスを利かせるのです。そうすることで経営にディシプリン(規律)がもたらされます。事業継承にあたって、このあたりをうまくルール化できているところが生き残り、そうでないところは問題が生じてしまうということだろうと思います」(柳川氏)