ドラスティックに会社を変えてはいけない

『「後継者」という生き方』牟田太陽著(プレジデント社)

「社長になったら会社をドラスティックに変えてやろう」と考えている後継者はわりと多いのではないだろうか。戦後すぐに創業した会社にとっては、会社を取り巻く社会環境は激しく変わってきた。女性の社会進出に伴って産休や育休なども拡充してきており、最近では男性社員も育休をとるようになってきた。

働き方自体も、昔は朝早くから遅くまで働くことが美徳とされる傾向があったが、それも変わりつつある。会社としても法令順守や社会的責任というのが問いただされるようになってきた。

そういった時代の変革の中で、それが「当たり前」として育った後継者の中には、創業者が作った理念などがときに古臭く感じることがあるのだろう。「自分が社長になったら、ここと、ここを変えて……」などと虎視眈々と考えたくなる気持ちもわからなくもない。

しかし、社長になった途端に理念などを変えることは完全にアウトだ。最低3~5年は前社長のやり方や考えというのを踏襲すべきだと私は考えている。後継者が社長に就任して「馴染む」のにそのくらいの期間がかかるからだ。急にさまざまなことを変えようとすると社員から拒否反応が出ることがある。その間、焦らずどっしりとかまえていてもらいたい。

経営の究極の目的は、「永続させること」以外にない。永く永く繁栄を続けていくためには、「革新させるべき部分」と「絶対に変えてはいけない部分」がある。

何十年も経営をしてきた先代の知識や知恵というのが、「絶対に変えてはいけない部分」の一つだ。その中には先代が自身で身をもって経験した原理原則が含まれていることが多い。「経営は、原理原則が8割で、残りの2割が時事的なものだ」と以前からお世話になっている元ジョンソン・エンド・ジョンソン社長の新将命先生は言う。

その重要である原理原則を昨日今日に社長に就いた後継社長が変えてしまうと、ときにリスクが生まれる。原理原則を忘れ、時事的なテクニック論に走ると、会社はおかしくなってしまうことがあるのだ。だからこそ、そんな地雷を踏まないように会社の変革は時間をかけて行うべきなのだ。