社内の兄弟と揉めないために

経営者に子どもが何人かいた場合、子ども全員が自分の会社にいるようなことはよくある。兄弟で支え合って会社を盛り立ててもらいたいと思うのかもしれないが、兄弟経営というのは実はとても難しい。「息子が2人いたら会社を2つ、3人いたら会社を3つ作る」というのが、争いが起きないため理想なのだが、いくつも会社を作るのは容易ではないだろう。

兄弟経営をしている会社は多いが、兄弟が仲良くしている会社は非常に少ないのが現実だ。これについては会社の数だけ違った理由がある。もともとは仲が良かったが、父親が亡くなったとたんに株で揉めたり、どちらが社長になるかで揉めたり、最後の最後に退職金で揉めたり、兄弟の奥さん同士の仲が悪いことが原因で兄弟まで縁がなくなってしまったというケースまである。

では、兄弟間で良好な関係が続く事業承継には、どんなやり方があるのか。まず、エリア、商圏で分ける方法だ。商圏と言われてもピンとこないかもしれないが、ガソリンスタンドを想像してもらえれば理解しやすいだろう。

多くの人が自宅から数キロ、または職場から数キロのガソリンスタンドを使っているはずだ。すると、もし自分がガソリンスタンドの会社を経営していたとしたら、地図のガソリンスタンドごとに半径数キロの円を書いていけば、その円がぶつからないところに出店できることになる。大雑把に言うと、これが商圏の考え方だ。

そうやって分けた商圏で、「こちらを兄、隣を弟」とするのだが、この方法には危険もある。兄と弟がやっているうちはいいのだが、兄弟の子どもたちの時代になったとき、祖父が分けた商圏に侵入してくることもあるからだ。もし商圏で分けるのであれば、後々まで考えて、関東と関西などはっきりと区別したほうがリスク回避になるだろう。

兄弟で「作る会社」と「売る会社」で社外分社をすることで、役割で分ける方法もある。トヨタ、ソニー、東芝なども今は一本化しているが、昔は製造と販売で会社を分けていたこともある。あるいは、食材を輸入する会社、食材を加工して販売する会社、食材を使ったレストランを経営する会社といったかたちが考えられる。それぞれの会社が連携を取り、協力しながらやっていけるだろう。

私が明快に思っているのは、もし兄弟が同じ会社にいるのであれば、後継社長はそれぞれの兄弟の能力に見合った役職を与え、場合によっては給与の面でカバーするということだ。

ときに、社長の子どもだからというだけで地位の高い役職に就いているが、残念ながらその実力が伴っていない人を見かける。リーダーシップに欠けているにもかかわらず役職に就いていると、その下で働く部下たちが苦労をする。もし実力不足が否めないのであれば、無理に高い役職を与えず、給与の面で不満のないようにカバーをしていけばいいのだ。

会社の急激な変革、古参社員との付き合い、兄弟との社内の関係と、どれも見落としがちだが後継社長が気に掛けるべきことだ。注意するのはもちろん、まずはそんな“地雷”があることだけでも知っておいてもらいたい。

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