15万部のベストセラーとなった著者の『現場力を鍛える』は上梓が2004年。バブル崩壊後の経済低迷が「失われた10年」と呼ばれた頃だ。

その低迷が、今や20年の長きにおよぶ。では、この間に本当に「失われた」ものは何だったのか。それを問うたのが『現場論』である。「本当に失われたのは経済の好況ではなく、日本企業の“現場力”」と著者は喝破する。

遠藤 功(えんどう・いさお)
ローランド・ベルガー日本法人会長。1956年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士。三菱電機、米系戦略コンサルティング会社を経て現職。著書に『現場力を鍛える』『見える化』『新幹線お掃除の天使たち』ほか。

「企業が業績不振になると、本社や経営陣が叩かれ、経営戦略がまずいといわれる。しかし、一方の現場はどうか、きちんと機能しているのか。それがこの10年間、私が抱き続けてきた問題意識です」

これまで訪れた現場は400を超える。そこから見えてきたのは、日本企業の「現場」の特殊性だ。生産の場において自立的、自主的に問題を解決する力を備え、それを成しうるナレッジワーカー(知的労働者)も多い。

上からの統制的な指示に従うのが一般的な海外企業の生産の場とは、そこが大きな違い。それゆえ「日本語の『現場』に見合う訳語が英語では見当たらない」という。

ところが近年、著者が見てきた中で、「これはすごいと思える“非凡な現場”は10%程度」にすぎない。与えられた業務をこなすだけではなく、自ら課題を見出し、軌道修正する能力を持った現場が、かつての日本企業の成長を支えた基盤だった。今、それが痩せ衰えている。

「前著のヒットも、現場の疲弊を気にしていたビジネスパーソンや経営者が、案外多かったからではないでしょうか」

これまでの著作では、現場力の重要さを訴えはしたものの、現場力をどう鍛えるか、その方策を示してこなかった。本書では「現場を強くする道筋」を説くことに力を入れた。

「現場だけを改善しても『非凡な現場』にはならない。本社主導でもうまくいかない。現場の潜在能力をどうすれば解放できるのか、それを考え実践する必要があります」

著者によれば、日本の現場は、西欧では不可解な存在。しかし今、その特質が注目され「GENBA」という表記も通用しつつあるという。

「本社主導、戦略重視の欧米的な経営から、いま一度、足元の現場に立ち戻り、競争力を組み立て直してほしい。現場が強い企業は、世界で勝てます」と著者。その処方箋は本書に詳らかだ。

(永井 浩=撮影)
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