世界中のSK-IIは滋賀工場でつくられている

高木琴美 P&G 滋賀工場長
1990年P&G入社。高崎工場オペレーションマネージャー、シンガポールにて洗濯洗剤のアジア担当アソシエートディレクターを経験後、2013年より現職。2児の母。

JR東海道本線の野洲駅から車で10分ほどの田園地帯に、青色のブランドカラーが建物にあしらわれたP&G滋賀工場はある。

滋賀工場が製造するのは主力製品である基礎化粧品・SK-II。成分の充填から包装・梱包までの作業が、主に地元の工業高校出身の約150人の工場職員によって行われている。言わずと知れたグローバル企業であるP&Gは世界に100以上の工場を展開しているが、このSK-IIの製造ラインがあるのは滋賀工場だけだ。

同社には工場に対する四段階の評価基準があり、同工場はその最高評価である「フェーズ4」を獲得している。

「フェーズ4の認定を受けているのは、世界中の工場の10%ほど。リーダーだけではなく、スタッフ一人ひとりがオーナーシップを持ち、自ら課題を見つけて排除していく力を持っているかどうかがその評価基準です」と滋賀工場・ヒューマンリソーシズ マネージャーの鈴木康嗣さんは語る。

「言い換えれば、自主的に改善が進められていく組織。社ではこれを『セルフサフィシエントチーム』と呼んでおり、フェーズ4を得るための最も重要かつ基本的な条件としています」

認定は3年に1度のペースでアメリカ本社、シンガポール、スイスのジュネーブに在籍する専門の「アセッサー」によって行われ、その際のチェック項目は多岐にわたる。工場で働くスタッフにとって、フェーズ4の獲得に向けて作業を改善することは、日々の仕事における大きなモチベーションの一つとなっているという。滋賀工場が認定を受けたのは2010年12月。1999年から認定制度に参加する準備を開始し、10年間かけてついに獲得した称号だった(ちなみにフェーズ4を取得した後も、それに相応しい状態が維持されているかどうかが、同じく3年に1度の間隔でチェックされる)。

「工場では働いている個々人の職責がはっきりしているので、マネジャーが指示を与えて改善していくことはそれほど難しくない」と鈴木さんは続ける。

「P&Gでは工場職とマネジャー職のキャリアが明確に分かれているので、言われたことをやる、という雰囲気になりがちなんです。でも、指示通りに動くだけでは“強い工場”とはいえず、まだフェーズ2の段階に過ぎません。外部の工場で起きている事象も含めて学び、工場職のスタッフがプライドを持って自ら積極的に提案できる必要がある。一つの操作を間違えるだけで様々な問題が起こりうる工場において、滋賀は16年間全く問題が起こっていないんです。それは彼ら自身がそのように自ら動いているからなんですね」

だが、こうした「最高評価」をすでに得ていることは、新任の工場長にとっては悩ましい問題でもあるようだ。外部からの評価が「それ以上ない状態」で、どのようにさらなる改善や社員のモチベーションの維持を図るか。その目標設定をマネジャー自らが工夫する必要があるからである。