そこで彼女がまず集中したのは、しばらく工場の一つひとつの工程を観察し、現状維持のままでいい個所と、目標は達成してもまだ改善が可能そうな個所を選り分けることだった。たとえ完璧に見える組織であっても、項目を細分化することで課題を抽出していくことはできる。そこまでは工場のマネジメントにおける定石だ。

そして次に彼女が考え始めたのは、「フェーズ4」を達成したチームだけが進むことのできる特別な目標、「自分たちにとってのフェーズ5とは何か」を設定しようと試みることだった。

「私はもともと滋賀工場のたたき上げではなく、これまで前述の工場のほかに生産統括本部などP&Gの全く異なる部署で働いてきました。なので、まっさらな状態から組織を外からの視点で理解してみることにしたわけです。実際に社員の一人ひとりに話を聞き、工場のスタッフがどこを強みと思っているか、もっと頑張れると思っている個所はどこかを見つけることから、どんな刺激を外から与えていくべきかを探っていったんですね」

工場長就任から数カ月後、彼女が見出した課題は次のようなものだった。滋賀工場は、工場としての機能は確かに最高水準にある。しかし、一方でそのことは「現状維持でいいじゃないか」という社員の意識へと少なからずつながっていた。

「ただ、その評価はSK-IIという商品を製造・出荷するまでの工程についての評価に過ぎません。あくまでも工場はサプライチェーン全体の中の一部。私たちさえその気になれば、工場で発見したノウハウを伝えたり、商品の付加価値となるアイデアを提案したりできるはずでした」

例えば個々の社員が生産工程の隅々を深く理解していれば、本来なら初めから無理だと判断されていた少量多品種の生産も、サプライチェーンのデザインの改革次第で可能になるかもしれない。あるいは店舗ごとにパッケージを変えたり、顧客に合わせた「スペシャルパック」の生産を工場側から提案したりしても面白いのではないか――。

「製品を作って出荷して終わり――という概念を根底から変え、提案ができる工場へと脱皮する。これまで交流のなかった業者さんと話す機会をつくったり、お客様の声を今以上にフィードバックしたりすることで、工場にできることはもっと増えると私は思っているんです。製品をきちんと作ることだけではなく、新しい付加価値を生み出せる工場へ進化することを私たちの『フェーズ5』として設定したんです」