世界最大の消費財メーカー。その根幹を支えるのは、意外にも生え抜きの育成を重視する日本的な人材マネジメントだった。純血主義の弊害をどのように克服してきたのだろうか。 

5年連続2ケタ成長を支える「内部昇進制」

ビジネス環境の変化が激しく、スピードが求められるグローバル競争社会では、有能な人材を外部から調達することが常識となっている。近年はマネジメント層に限らず役員クラスまで外部から招き入れる大手日本企業も珍しくない。

従来の日本企業は新卒を囲い込み、年功序列と終身雇用制の下で育成し、会社に対する一体感と忠誠心を醸成することで競争力において強みを発揮した。ところが、外部と隔絶された温室的風土の弊害として、内部競争力の低下による人材の劣化と能力の有無に関係のない順送り人事という組織と人事の硬直化をもたらしたことも事実だ。

だが、今日において新卒を重視し、中途を受け入れない“純血主義”を一概に悪と言い切れるのか。必ずしもそうではない。たとえば世界最大の消費財メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は新卒重視による「内部昇進制」をグローバル規模で実践している企業の一つである。その方針は徹底している。

同社ヒューマン・リソース・ディレクターのソン・ドンオンは「中間管理職以上でいきなり外から入ってくることはP&Gでは考えられない。もちろん、弁護士や医師、博士など内部で育成できない人材は例外としても、その例外も少ない。それ以外はすべて新卒者を採用し、新入社員時代からCEOになる人材を育てていくという考えだ」と指摘する。

仮に中途人材を採用するとしても新卒と同じく身分も一兵卒からスタートするという徹底ぶりだ。だが、内部昇進制が日本企業のように内向きの同質性ゆえに競争力の低下をもたらすかといえばそうではない。売り上げ規模は過去5年平均で10%超の成長率を示し約7兆円(2006年度)、純利益も1兆円を超える高い利益率を誇る。この高い収益を稼ぎ出す人材力の根幹を内部昇進制が支えている。

では同社にとって内部昇進制の利点とは何か。

「当社は企業文化、価値観、そしてビジネスの展開状況を含めたすべてにおいて真のグローバル企業であると自負している。様々な諸制度やプログラム、システムやデータベースも世界共通に標準化され、ある人材がどこの国に行っても、その日から効果的・効率的に仕事が進められる環境が整っている。同じトレーニングを受けて企業の目的、価値観、仕事の進め方を共有することで言葉が通じるというか、お互い何を考えているかもグローバルレベルでわかるし、信頼感も生まれる。同じ企業で一緒に育ってきた仲間であれば、長々と時間と労力を費やして細かい説明をする必要もなく、チームワークをとりながら効率的・効果的に仕事ができる」(ソン・ディレクター)