また採用にあたっては前述したように人材の質に徹底してこだわり、グローバルな採用基準にしたがって選考する。面接にあたっては同社独自に開発した行動科学に基づいた方法による選考を行う。研修を重ねた面接者が今までの人生で達成したことなどを質問し、行動パターンを分析する手法であるが詳細は企業秘密だ。ちなみに以前使っていた試験方法はコンサルティング会社に売却したという。
部門別採用であることから入社後の人材育成も部門別に行う。日本企業では様々な部署を経験するジョブローテーションによってリーダー人材を育成するのが一般的であるが、同社の場合、所属部門の業務と並行して他の部門も経験するというやり方である。
たとえば人事部門に入ると部門をまたがる採用・教育などのコア業務を経験し、その後は製品部門や工場の人事責任者として部門のチームメンバーとして一緒に仕事をしながら経験を積んでいくことになる。
しかも異動はグローバル規模で実施される。ソン・ディレクター自身も韓国のP&Gに入社後、人事部門に配属。最初は生産工場立ち上げの人事スタッフに携わり、その後、中国の大規模工場の立ち上げに参画するにあたり人事キャリアの経験を積むべく3カ月間米国に勤務。米国の各工場で知識と経験を得たうえで中国工場のスタッフとして赴任している。
「人事という立場で研究所や製品部門などあらゆるビジネスを経験し、会社の全貌を把握できる人材を育成するようにしている。私自身、自分のキャリアを踏まえて会社に要望し、積み上げてきた。キャリアパスを選んだのは自分自身であり、やりたかった仕事を突き詰めることでプロのビジネスマンとしての達成感と誇りを持てるし、仕事に対する意欲が出てくるようにすることが重要と考えている」(ソン・ディレクター)
若くして権限を委譲するのも特徴の1つだ。たとえば各ブランドの一切の権限を持つブランドマネジャー職に入社後5~6年で抜擢される。もし失敗すれば会社も痛手を被るが「たとえ失敗しても早く成長するし、長期的には会社にもプラス」(ソン・ディレクター)という判断がある。海外赴任も珍しくない。同社の世界の拠点には約3年程度滞在する外国人マネジャーが約2000人存在する。最大の目的はグローバルな視点で経験を重ね、そこで獲得した知識やノウハウを自国や他の拠点で活かしてもらうことにある。
ちなみに同社は経営人材の輩出企業としても知られる。GEのCEOであるジェフリー・イメルト、AOL元COOのスティーブ・ケース、マイクロソフトの元COOのボブ・ハーボルドも同社の卒業生である。