評価者を指名できる360度評価制度
社員の自律的なキャリア形成と会社としての適材適所を可能にする仕組みが業績評価と連動するワーク・アンド・デベロップメントプラン(W&DP)である。目標管理制度に近いものであるが、全社的な目標を部門、チームを経て個人の役割に落とし込み、その達成を図るための能力育成計画や成果のレビューを統合したものである。
具体的には部下が過去1年の業務成果と今後1年の業務計画、それと今後の短期(1~2年)、長期(5~10年)にわたる自身の希望するキャリアについて記入。上司はそれに基づいて前年の成果に対する総括評価とそれを前提に今年の業務計画を遂行するうえでの本人への期待や改善点を含めて総合評価を行う。同時に部下に対し、育成すべき能力と、それに必要な業務の経験と受講すべき研修内容を記した能力開発計画を作成するというものだ。
この仕組み自体は珍しいものではないが、実効性を高めるための独自の工夫を実施している。その一つが上司の人事評価項目にビジネス上の業績向上の責任とともに部下の育成や組織風土の改善などの組織能力開発上の責任が組み込まれている点だ。管理職が自分のビジネスを伸ばすというのは当然だが「それと同じくらいに自分の部下を自分よりも優秀なマネジャーに育てるべく毎日努力しているかということで自らの業績が評価される」(ソン・ディレクター)ことになる。
これは社員間の暗黙の了解事項の1つになっているという。その背景には言うまでもなく「内部昇進制である以上、外からリーダーを持ってくることができない。次世代のリーダーを自ら育て続けなければならない」(ソン・ディレクター)という使命感を帯びているからである。
もう一つが評価の公平性、納得性を担保する仕組みとして導入している360度評価(他面評価)である。他面評価の使い方は各社各様であるが、同社の場合は被評価者自身が自分を評価してもらいたい人を指名し、最終的に直属上司の評価に反映する仕組みである。評価者は部下、同僚、上司と同じレベルの人の中から選ぶことができる。
「たとえば社員Aの上司と同じレベルの人が集まり、それぞれが自分の部下に対してはこういう評価をしているということを互いに披瀝し、評価のバランスがうまくとれているかを話し合う。つまり社員Aから見れば直属の上司だけの評価ですべてが決まるのではなく、他の上司の評価もインプットされることになり、さらに安心できることになる」(ソン・ディレクター)