言うまでもなく日本企業が美徳としてきた価値観である。俗な言い方をすれば「同じ釜の飯を食べた仲間」ゆえの一体感がもたらす信頼関係や機動力などの強みを重視している。しかし、その一方で冒頭に指摘したように純血主義がもたらす弊害も発生する。その点、同社ではリスクを担保する仕組みが縦横に張り巡らされている。
その核となるのが同社の“憲法”である「企業方針声明書」(Purpose, Values, and Principles=PVP)であり、その名の通り、企業方針、価値観、理念の3つからなる。価値観では「私たちは、世界中でもっとも優秀な人材を引きつけ、採用します。私たちは、組織の構築を内部からの昇進によって行い、個々人の業績のみに基づき社員を昇進させ、報奨します。私たちは、社員が会社にとってもっとも重要な資産であるという信念に基づき、行動します」と社員重視を謳う。
内部昇進制を宣言すると同時に、年功ではないパフォーマンスに基づく報酬・昇進システムを実施。採用と人材育成の重視を掲げている。成果主義による厳格な評価制度を入れることで、ぬるま湯的体質を排除するだけではない。他社のように成果を発揮できない社員と外部の人材を取り替えできない以上、優秀な人材の採用はもちろん、入社後の育成が決定的に重要にならざるをえない。しかも育成しても社外に流出すればリスクも大きい。そうならないためには社員の満足度と業績拡大など会社の目指すベクトルを常に一致させる必要がある。
同社の年間離職率が3~4%と低いのは、まさにこの点に膨大なエネルギーを費やしているからといえる。
希望するキャリアを積ませることが最大意欲をひき出す
PVPの理念に「私たちは、すべての個人を尊重します」というのがある。ソン・ディレクターは「社員は個人として尊重されるべきであり、会社のものではない。社員が仕事を楽しくやるためには、自分がやりたいと思う方向にいけるようにできるだけ制約をなくすこと、自分自身の進むべき方向は何が正しいかを考えてもらったうえで自由にやれる環境を用意し、そこで充実感を感じてもらうことが生産性を高めるという考え方に立っている」と語る。
たとえば採用は部門別採用であり、事前に1年後、5年後、10年後にどういうキャリアを身につけられるのかというキャリアパスを具体的に明示し、本人の志望を重視する。