望月氏が愛用するカシオ製の金融電卓と、スケジュール帳。どちらも私物である。

以来、「若造が偉そうにと思われないよう、年配のお客様の前では、自分の意見を抑え『他のお客様がこう話されていました』と伝聞話法を増やすように変えました」。こうした工夫の結果、再び営業成績が回復したという。

野村不動産躍進の象徴が、東京湾岸に立つ「プラウドタワー東雲キャナルコート」だ。11年12月に販売を開始した52階建て、総戸数600戸のマンションに、望月さんは企画から携わり、もちろん販売の前線でも活躍した。東日本大震災で、住宅に求める顧客ニーズが一変した時期だ。震災によりモデルルームの公開を5月から9月に延期。改めて顧客アンケートを取ると意外な結果が出た。

お客は「湾岸のマンションに住みたくない」のではなく、「安心・安全なマンションに住みたい」のだ。そこで望月さんが採ったのは、不安を払拭する手法だった。震災後に実施した液状化対策の強化や家具の転倒防止策などを積極的に公開。接客時の話法でも耐震面の安全性強化をアピールした。その結果、第5期販売の2次分までは即日完売。震災後、初の「湾岸、タワーマンション」の成功で、住宅業界全体にも自信を与えたのだ。

一見、真面目で落ち着いて見える望月さん。取材時、一般論としてモデルルームでの営業マンの感心できないふるまいについて指摘すると、「まず、その件に関しては、どうもすみません」と素直に謝り、周囲を爆笑させた後で説明を始めた。この屈託のなさも実績を支えているようだ

(的野弘路=撮影)
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