1億を稼ぐのにマニュアルがないのと同様、話し方にもマニュアルなどない。だが、とてつもなく稼ぐ人たちには、間違いなく共通点がある。富裕層を顧客に抱えるカリスマが、経験を通じてつかんだ彼らの個性と魅力、言葉に宿る宗教観を分析する。
暗黙知【1】――根回しをしているか?
相手に会う前にどれだけ相手のことを知っているか――。「稼ぐ人」はコミュニケーションにおいて、事前の情報収集が非常に大事であることをわかっています。
ですから、いきなり相手に会うことはしません。面会する前に必ず、相手の状態や興味関心をリサーチします。相手もまた「稼ぐ人」であればなおさら、知識も情報も豊富に持っているはずなので、ありきたりな話をしても「そんなことはもう知っている」「かったるい」と思われてしまいます。そのような相手に対して、いかに「聞いておいたほうがよさそうだ」と思わせるかは、事前の情報収集、すなわち「根回し」にかかっています。
福岡ソフトバンクホークスの小久保裕紀選手(2012年時点)が、野球だけでなく話し方においても超一流だと思うのは、この根回しの実践によってです。
先日、会ったとき、彼は私に「ある芸能人の気遣いに感動した話」をしました。彼がなぜ私に気遣いの話をしたのかというと、おそらく事前に私の価値基準や評価軸をリサーチしていたからです。私のセミナーに参加したり、著書を読んだりして、「江上さんはどんな人が好きなのだろう」「何を好むのだろう」ということを徹底的に考えたはずです。私が相手の要望を汲んで行動することの大切さを繰り返し説いているのを知り、私が興味を持ちそうな礼儀やマナーに関する話題を意識的に選んだのだと思います。
●相手にとっての興味を先回りして提示する
小久保選手の話に、私はたいへん興味をそそられました。野球選手である彼が、野球以外のネタで私の興味を引きつけたことにも驚きと感動を覚えました。このように、どのような話をすれば相手のためになるのか、相手はメリットを感じてくれるのか。事前に相手のことをリサーチして根回ししておくのが、「稼ぐ人」のやり方なのです。
私の場合、超一流の顧客と会う前には、必ず秘書に電話をして、「いま、○○さんの機嫌はどう?」と探りを入れます。相手の心の状態によっては、話の切り出し方を変える必要があるからです。しかし、「稼げない人」は事前の情報収集に無頓着です。相手がどんな状態にあり、何に興味があるのかも知らずに会うわけですから、相手を引きつけるような話ができるはずもありません。相手は話の内容にメリットを感じられず、会話もつながらない。面談や商談は失敗に終わり、結局は時間の無駄です。
コミュニケーションとは恋愛のようなものです。口説くには、相手のことを事前にリサーチし、好みに合わせようとするでしょう。コミュニケーションも同じです。事前に相手の部下や関係者に取材して、相手の興味や心の状態を知ろうとする労を惜しまないことです。