世界6極体制は実現可能か?
「DEB(開発、生産技術、購買)の3分野を経験し、中国では二輪、汎用機も少し手がけた。この経験の広さが自分の強み」
と、八郷氏は舵取りに自信を見せる。その力量が測られるのはまさにこれからだが、果たして苦境に立つホンダをふたたび輝かせえることができるのだろうか。
難問は数多い。八郷氏は伊東氏の敷いた路線である世界6極体制をさらに強固なものにすると表明した。世界6極体制は地域ごとに商品企画、開発、生産の独立性を高め、顧客ニーズへの対応力を強めるのが目的だが、そのままではオペレーションがバラバラになってしまう。それらをひとつのホンダとしてまとめるには、日本の本社がことのほか強い求心力を持たなければならない。その体制づくりはまさにイバラの道だ。
「例として一番わかりやすいのは、世界6極体制をうたう以前から独立したオペレーションで運営されていたアメリカ。アメリカンホンダのHONDAの文字は青なのですが、グローバルで赤に統一しようと言っても聞こうともしない。それどころか、ホンダはアメリカの利益で食っているようなものだから、アメリカの言うことを日本が聞くべきと言わんばかり。中国やアジアパシフィックなどの成長市場も、そのうち言うことを聞かなくなる恐れは多分にある」
ホンダ幹部の一人は実情をこう打ち明ける。伊東氏は世界6極体制のもうひとつの目的として、商品の相互補完を挙げる。地域同士で互いに売れそうなモデルを融通し合えばより効率的にグローバル展開ができるという考え方だが、これは今のところまったく上手く行っていない。
アメリカを主体に開発されるようになったかつての主力モデル「シビック」と「アコード」は、デザインやボディサイズが日本のカスタマーの好みに合わず、シビックは販売中止、アコードも高性能なハイブリッドシステムを搭載したにもかかわらず、すっかり影の薄い存在となってしまっている。
昨年12月に発売したコンパクトなハイブリッドセダン「グレイス」は、インドや東南アジアで売られているモデルを日本仕様に仕立て直したものだが、発売後1カ月の受注が1万台という威勢のよい発表とは裏腹に、販売現場では日本のカスタマーの好みに合わず売れないという声が沸き起こっている。北関東や東海のディーラーの中には「発売と同時に試乗車を用意したが、お客様のほうから試乗させてくれと言われたのは文字通りゼロ」(北関東ディーラー関係者)という。2月に発売した「ジェイド」は中国モデルがベースだが、こちらも苦戦。もともと地域密着型の商品企画を強化することをうたっているのに、それを違うエリアに持っていって売るということ自体、絶対矛盾でもある。6極体制を本当に理念どおりのものにするには、八郷新社長に相当のリーダーシップが求められる。