陥りやすい“一発病”のリスク
6極体制ばかりではない。F1、スポーツカー、航空機などの新しいチャレンジを軌道に乗せられるかどうかもこれからにかかっている。とくにスポーツカー、航空機については、ホンダが伝統的に陥りやすい“一発病”のリスクが付きまとう。
「ホンダジェットはスペックシートを見る限りすばらしい性能ですが、航空機ビジネスはそれだけでは完結しない。顧客のニーズを汲んで、より多人数が乗れる胴体延長型、より遠くまで飛べる航続距離延長型など、フレキシブルにラインナップを拡充していかなければならないのですが、ホンダジェットは設計が今の形に最適化されすぎていて、そういうカスタマイズの余地がほとんどないように見える」(航空機業界関係者)
航空機の開発は10年単位の月日がかかる。今のうちに二の矢、三の矢を準備しておかなければサスティナブルな事業展開は難しいのだが、そういう情報は聞こえてこない。スポーツカーにしても、ホンダというブランドをどう輝かせるかというグランドデザインなしに、イメージアップのためにいくつかのモデルを作るというだけでは、結局そこで終わってしまう可能性が高い。単に伊東路線を継承するだけでは、これらの課題は解決されないのだ。
15年は花咲く年と会見で語った八郷氏だが、前期の決算会見で岩村哲夫副社長は「14年は収穫の年」と豪語していたにもかかわらず壮絶に空振りしたばかり。八郷氏は「良い物をお求めやすい価格で」という点についても伊東氏の路線を継承する意思を示したが、そもそもカスタマーが心から喜ぶような良い物であれば、高くても売れる。いつの間にか「お求めやすい」が逃げ口上になってしまっているのだ。
ホンダに今必要なのは、商品につけ経営につけ、自らの描いたばら色の空想物語を饒舌に語ることではなく、現実に真正面から向き合い、ホンダという企業、ブランドをどうしたいのかということを真剣に考えること。剣が峰に立つホンダの新トップとなる八郷氏の役割は果てしなく重い。