モチベーションが飛躍的に高まる「上司の物語力」

自分の所属する組織や、そこのリーダーが掲げた思想に共鳴することによってもまた、人はやる気を高めることができる。これを「理念的インセンティブ」と言う。

「私たちの会社はこのような社会貢献を果たすために、こういうサービスを、こういう人々に提供していく」という理念や、「3年後にはこんな組織になっていたい」などのビジョン、いわば上司による「物語力」に共鳴すると、人は「私は正しいことをしている、意義のあることをしている」という感覚を持てる。正しいと思える価値観を持って働くときには、個々人のモチベーションは飛躍的に高まっていく。

景気が後退すると、気持ちまで後退し、黙って嵐が行き過ぎるのを待つという姿勢になりがちだが、こういうときこそリーダー/管理者たる者は、組織の存在意義をいま一度明確にし、向こう数年間はこういう戦略で戦っていこうというビジョンを打ち出すことが求められている。

給与アップや出世に期待できないからこそ、それでも頑張る意味を提示する責任が上司にはある。

社員が最大限に力を発揮できる仕事量を創造する

景気の後退により売り上げが少なくなるということは、それに伴って仕事も徐々に減っていくことにもなる。残業が減るという点では、これはこれで歓迎としている組織もあるが、この状態があまり長く続くと自己実現的インセンティブという観点からは、マイナスの効果が大きくなるので注意が必要である。これは、「仕事そのものが面白い」「自分の持てる力を最大限に発揮している」などの感情を持つとき、人のやる気は高まるというものである。

リーダー/管理者はそのために何をすればいいのか。いくつか方法はあるだろうが、その一つは、新しい仕事をつくり出すことである。同じことの繰り返しや、既存の仕事の効率化だけでは、モチベーションを上げるのに限界がある。

たとえば営業組織であれば、営業員による新規開拓プロジェクト、マーケティングセミナーの企画と実施など、新たなテーマを設定して、売り上げという営業部門が創出すべき価値に結びつく仕事をつくる。新たなテーマにもとづく仕事を担うメンバーを集め、成果達成のためのアイデアだしから実行までを任せることができれば、効果的である。人は新しい仕事に自分のアイデアを活かしながら従事できるとき、仕事が面白く感じられるからである。