以上、「賞与ゼロ・昇給なし」など金銭的インセンティブが限界になるなかでの、優秀な若手社員のモチベーション維持および向上の方法を述べてきた。最後に、これらのインセンティブに共通の重要な要素があるのでそれを紹介したい。それは極めて言い古した感のある言葉であるが、「リーダー/管理者はメンバーとのコミュニケーションをしっかりとる」ということである。
「上司の評価力」も、ただむやみに褒めればいいというものではない。何がどうよいのかという丁寧でかつ誰もが理解しやすい説明が必要になる。
「上司の魅力」も、後ろ姿だけを示せばいいということではない、コミュニケーションを通した信頼関係の構築がなければ、そもそも人的魅力などは(少なくともメンバーには)伝わらない。
「上司の物語力」もまた然り、言語化できなければ、理念にすらならない。「上司の仕事創造力」の向上のためには、部下メンバーの特性をおさえておくことが必要だが、そのためにも日頃のコミュニケーションを通して部下のことを理解しておくことが必要である。
このように、コミュニケーションのとり方やその中身はメンバーにインセンティブを与えるためにも重要であるのだが、実はそれだけではない。メンバーとの接触を通して、リーダー/管理者自身が、自分の役割や責任を再確認できたり、新しいアイデアを思いついたりするという大きな効果がある。
他者とのコミュニケーションは、自分の考えを整理するためにも有効であるが、それ以外にも「彼ら彼女らのためにも自分が先にあきらめてどうする」とか「なるほど、現場では今そのような問題意識を持っているのか」という認識の変化は、この会話から生まれることがよくある。それは、何かを打破しようと前向きに頑張るリーダー/管理者にとっては、こういうご時勢で沈みがちな自身の気持ちを鼓舞し、その背中を押してくれることにもつながるのである。
部下メンバーのためでもなく、会社のためでもなく、むしろリーダーは自分自身のリーダーシップの成長のためにコミュニケーションをとるという発想を持つほうがいい。リーダー自身が成長し続ける姿こそが、結果として、部下メンバーの「この人のもとで一致団結して不況を乗り越えよう」という勇気の源泉になることは間違いない。
※すべて雑誌掲載当時