(1)価値創造を新しい視点からとらえる

コールセンターは価値の共創できわめて重要な役割を果たす。それなのに多くの企業が、コスト節減のためにコールセンターを自動化しており、悲惨な結果を招いている。自動化されたシステムでは、電話をかけた顧客は、皮肉にも「お客様のお電話は当社にとって大変ありがたいものです」と主張する機械的な声の指示に従って、ブッシュボタンを押すことしかできない。その結果は失望と諦めであり、人間と直接やり取りすることで得られる、より質の高い経験への渇望である。

「価値の共創を、セルフサービス技術という形で顧客の手に仕事を移すことだと誤解している」企業があまりにも多いと、プラハラードは言う。

これは自動化が価値を破壊するということではない。たとえば、スーパーマーケットのセルフレジの列は、買い物客に、より満足度の高い経験を提供し、それによってより大きな価値を創造することができる。セルフレジを利用するかどうかを選ぶ権利は顧客にあるからだ。そもそも、スーパーマーケットの顧客の大部分はレジのスタッフとのやり取りを求めてはいない。

(2)ITの新しい使い方を考える

適切な技術を適切に利用することで、価値を付加する実例として、プラハラードとラマスワミは、オンスターがITを利用して高度に個別化された(personalized)経験を創造していることを挙げている。GMは、最初は安全性と緊急サービスを提供するために、オンスターを市場に送り出した。それから、「どうすれば運転をより安全なものにできるか」だけでなく、「顧客は車の中で何を経験したいと思っているか」という、より視野の広い問いを立てることで、運転という経験をより質の高いものにした。たとえば、オンスターは、事故現場に救急車を派遣するために使われている技術を使って、最寄りのイタリア料理レストランを見つけるとか、ディナーの予約を入れるといった、明らかに緊急性のないサービスをも提供している。

プラハラードとラマスワミは、ITのこうした使い方の興味深い進展を、もう1つ紹介している。個別化されたやり取りのための情報インフラを構築するとき、企業は「多くのサプライヤー、パートナー、顧客コミュニティを『経験ネットワーク』として」組織化していく。この共創経験は、最終的には「個別の経験」になる。ネットワークは多くの組織や個人によって構成されているにもかかわらず、顧客にとってはただ1つの「顔」、または「声」と接する。これによって、多くの人が安心感を持ち、使いやすいと感じることになる。