――中国の新疆ウイグル自治区では、5月22日、ウルムチで133人が死傷する爆発事件が起きるなど事態が緊迫している。ノンフィクション作家の安田峰俊氏の現地ルポをお届けする。ウイグルの現実は、密告・尋問・虐殺が繰り返される地獄絵図だ。
車を出ろ!そこに立て!答えろ!答えろ!
突然、タクシーが見知らぬ路地に入っていく。理由を尋ねた私に、ウイグル族の運転手は「警察です」とたどたどしい中国語で答えた。
今年の3月上旬。ここは中国最西端の新疆ウイグル自治区、ポスカム県郊外のイマ郷である。周囲にはシルクロードのオアシス地帯特有のポプラ林と、崩れそうなレンガ造りのウイグル農家が広がる。ときおり、ロバの馬車に鞭を当てて走る老人や、羊飼いの女性とすれ違う。
数百年前から変わらないであろう風景のなかに、場違いな青いペンキ塗りの鉄筋コンクリート造りの警察署が聳え立っていた。タクシーが停まると、待ち構えていた治安担当者たちに取り囲まれた。
「車を出ろ! そこに立て!」
漢民族の警官が横柄な口調で命令する。彼らは私のパスポートを取り上げ、住所・氏名・年齢・職業、現地への来訪目的、なぜ中国語を話せるのかといった質問をネチネチと執拗に繰り返した。
ポスカム県の郊外にイスラム教の遺跡があり、県人民政府のウェブサイトでも「観光地」として紹介されている。私はそこを見にいっただけなのだが、彼らは尋問の手を緩めなかった。何度も同じ質問が続いて腹が立つものの、胸元にアサルトライフルを抱えた警官(新疆では普通の警官でもこの装備だ)には逆らえない。
「現地住民とは接触したのか! 武器弾薬や、イスラム教の違法な宗教書籍の受け渡しはしていないか! 答えろ!」
バカバカしい質問ばかりだった。