少数民族政策の失敗経済発展の恩恵なし

新疆ウイグル自治区は、かつて「西域(さいいき)」と呼ばれた。往年の中島敦や井上靖の歴史小説ではお馴染みの土地だ。現在も少数民族が数多く暮らしている。

新疆は1950年代に中国へ正式に併合されたが、漢民族の支配に対する住民の違和感はいまなお大きい。現地に1000万人いるウイグル族はイスラム教を信仰し、ティルク(トルコ)系の言語を話す。彼らは支配者の漢民族とは、民族・文化・宗教・言語などがまったく異なる人々なのだ。

携帯電話販売店の前に立つウイグル族女性。もはや漢民族経済抜きの生活も不可能な状態に。

だが、中国経済の高度成長が始まった90年代半ばから、漢民族による新疆への経済支配が大幅に強化されはじめた。新疆は石油や天然ガスなど資源の宝庫で、さらに中央による公共事業投資が盛んなことから、中国本土からの移民が殺到。漢民族人口は90年からの20年間で65%増の伸びを見せ、いまや900万人近くに達した。

結果、新疆経済は毎年のGDP伸び率が10%を超える好景気に沸いている。現在は区都のウルムチはもちろん、カシュガルやホータンなどの地方都市でも中心部を漢民族移民たちが占め、中国本土と変わりないような大型スーパーや高層マンションが街を埋めつつある。昨今は成長の鈍化が噂される中国経済だが、フロンティア地帯の新疆はいまだに高度経済成長を続けているのだ。

しかし問題は、土着の少数民族――特に共産党とのコネや中国語の会話能力を持たないウイグル族の庶民層が、こうした経済発展の恩恵をまったく享受できておらず、不満が蓄積しているという事実である。

例えば南部のホータン地区の昨年の1人当たりGDPは8141元(約13万円)で、漢民族が多いウルムチ市の約9分の1。漢民族の企業や商店が、差別意識からウイグル族の雇用を拒否するケースも多く、格差は拡大の一途をたどっている。

政府側は少数民族への住居の提供や教育支援の拡大など「アメ」も提示しているが、馴染みのある旧市街を破壊されたり学校での中国語教育が推進されたりすることに反発する住民は多く、政策は必ずしも有効な効果を挙げられていない。

ゆえに、ウイグル族の不満も限界に近づきつつある。

09年にはウルムチ市で大規模な騒乱が発生し、漢民族を含めた数百人が死亡。最近でも、昨年10月にウイグル族男性が自動車で北京の天安門へ突っ込んで自爆し、死者5人と日本人を含む数十人の負傷者を出す事件を起こした。また今年3月には、雲南省昆明市の駅前でウイグル族数人が刃物で漢民族を次々と殺傷し、29人の死者を出した。