私は先ほどの遺跡に向かう途中でも、やはり地元の警察に連行され、似たような尋問を受けている。その結果、警官と新疆生産建設兵団傘下の工作隊員(人民解放軍の諜報担当者)がべったりと貼り付き監視するなかで遺跡に行くことになった。現地の住民と接触する機会などあるわけがないのだ。

そもそも、私はこの日、これ以前にも警官に何度か拘束されている。

正午、県の中心部に到着して手近なホテルに入ると、受付の女性に問答無用で公安局へ連れていかれ、パスポートを押さえられて30分の尋問を受けた。やがて公安経営の別のホテルに放り込まれると、今度はホテルのロビーで、別の女性警官1人とアサルトライフルを装備した警官3人に尋問を受けた。質問の内容はすべて似たり寄ったり、いずれも極めて執拗だ。

彼らが行く先々に現れる理由は、現地の社会の隅々にまで密告網が張り巡らされているためだ。漢民族からの雇用差別で職にあぶれたウイグル族の若者を、当局が月給800元(約1万3000円)程度で雇用。同胞の行動を監視したり不審者を密告したりする協力者に仕立てている。お陰様で、私はどこに行っても尋問を受ける。特にこのイマ郷の警官は意地が悪かった。

「日本人は中国領土の釣魚島(ディアオユィダオ:尖閣諸島)を奪ったペテン師どもだ。徹底的に取り調べてやる」

リーダー格の中年警官が叫ぶ。

「釣魚島はどこの領土だ?」
「貴様は安倍晋三の靖国参拝を支持しているのか、答えろ!」

もはやウイグル問題とは何の関係もない。単なる嫌がらせである。

私は彼の怒鳴り声を聞きながら、警察署の庭に立たされ続けた。シルクロードに落ちる夕日がじりじりと肌を灼いた。