「妻とは別れるから……」というのはドラマなどでも使い古された言い回しである。その言葉を信じた浮気相手の女は、決まって男に裏切られる。
浮気など、自ら夫婦関係をこじらせる原因をつくった側は、法律上「有責配偶者」と呼ばれる。では、有責配偶者の夫がその言葉通りに妻との離婚をしようとする場合、裁判所はどのような結論を出すのだろうか。
「自分で離婚原因をつくっておきながら離婚を請求することを、裁判所は望ましくないと考えている。つまり有責配偶者からの請求を認めないのが原則的な立場」(久保内統弁護士)と説明する。妻に浮気がバレている夫は、自ら離婚を請求しても、原則は認められない。離婚するかどうかを選ぶ権利は浮気された妻の側にあるのだ。こうした裁判所の考えは「法律の理屈というより、社会常識的な感覚から導かれる」(同)という。
しかし、例外もある。過去の裁判所は長い間、以上の原則に従い、有責配偶者の請求をことごとく退けてきた。しかし、1987年に最高裁判所は、その請求を認める条件を示し、画期的な判例変更を行ったのである。
「実質的に夫婦の関係がどうなっているか、という点で結婚を捉えるのが現代の傾向。籍を入れていなくても共同生活の実体があれば『内縁の夫婦』として認められるわけだし、その裏返しで、たとえ戸籍上は夫婦でも、共同生活の実体がないのなら、離婚を認めたほうがいいという判断になりやすい」(同)
そして、夫婦の共同生活の実体の有無を判断する客観的な基準が、別居しているかどうかだと久保内弁護士は指摘する。
「たとえ年がら年中、夫婦ゲンカが絶えなくても、あるいは個室に鍵をかけて互いにまったく顔を合わせなくても、ひとつ屋根の下で同居している限り、裁判所は『関係を修復できる可能性があるのではないか』と考える。一方、別居が数年間にも及び、共同生活の実体がなくなっている夫婦では、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性が高くなる。条文や判例で基準が示されているわけではないが、目安としては『別居期間5年』がひとつのボーダーライン」(同)。つまり、有責配偶者であるか否かにかかわらず、離婚を希望するのであれば家を出て別居の実績をつくるべきだし、希望しないのであれば、土下座してでも相手に戻ってきてもらうしかない。