長引く不況によって、会社員が残業を行う機会や時間は、減少傾向にあるようだ。とはいえ、時には残業せざるをえず、プライベートの時間を削られる場面がある。
たとえば、保育園に通う子どもを迎えに行かなければならないときに、仕事が終わらず、上司から残業を命じられることもある。では、子どもの送り迎えという理由で、会社の残業命令を断ることはできるのだろうか。
社会保険労務士の北村庄吾氏は「会社に勤める従業員には、会社の指揮命令に従う義務を負う。そのため、労使の間で残業について定めたいわゆる『36(サブロク)協定』が締結されている場合、基本的に残業命令は断れない」との原則論を踏まえつつ、「最近になって育児・介護休業法が改正された。3歳より小さい子どもを育てる従業員については、残業の免除が認められるようになった。これを権利として使えば、残業命令を断ることが可能になる」と話す。
育児・介護休業法の改正については、当連載でも取り上げた(>>詳しくはこちら)。法改正は、現時点で従業員数が101人以上の企業にのみ適用される。
ただし、100人以下の企業については、再来年6月末まで適用が猶予されている点に注意が必要だ。つまり、従業員に残業免除の特典が付されるかどうかは、育てている子の年齢と会社の人的規模によって決定されることになる。
では、子どもが3歳以上、あるいは従業員数100人以下で、育児・介護休業法の改正が今のところ適用されず、法的に残業免除を主張できない従業員は、どういう根拠で残業を断ればいいのか。
「現実問題として、両親ともに多忙、あるいは片方の親しかいないなどの事情があって、その子を迎えに行ける人がほかにいない状況にある従業員に上司が残業を命じるという場合は、嫌がらせ的に残業命令をしているというケースも多い。もし、その残業命令にイジメ・嫌がらせ目的が認められるとの主張を通すことができれば、その命令は不当な人事権の濫用で、一般的な公序良俗に照らして社会的妥当性がないものとして、断れるものと考えられる」(同)