この場合のように、会社側に一般的な人事権濫用や公序良俗違反があるとの根拠で、残業を断る場合、従業員側の主張が認められるか否かはまさにケースバイケースだと、北村社労士は語る。ほかの誰かが代わりに迎えに行けない、あるいは園の保育時間を延長できない、といった従業員側の事情と、残業命令に嫌がらせ目的がないか、その従業員に対して命じなければならない残業の緊急性や不可代替性が認められるか、といった会社側の事情など、様々な事情を総合的に捉えて判断されることになるのだ。
「たとえば、子どもを保育園へ迎えに行く従業員に、会社側が何か協力してあげたかどうかも問題となりうる。もっとも、会社にはお迎えに協力する義務などないといえばないのだが、人事命令権の濫用という意味では、そういった配慮の有無も加味して考えることができる」(同)
したがって、育児や介護を理由にやむをえず残業を断った従業員に、突然の減給や出向命令などを行った会社に対しては、不当な懲戒権の行使として争う余地もある。都道府県労働局雇用均等室などが主な相談窓口とされている。
「そもそも産休や育休から復帰して働こうという方を、残業要員として考えている会社があるとしたらおかしい。自分以外に子どもを迎えに行く人がいない従業員の事情を知っていながら、それでも残業を命じる会社があるとしたら、そんな鬼のような会社や上司は一体何だ、と批判されても仕方ないのではないかと思う」(同)
(ライヴ・アート= 図版作成)