肌への潤いを重視するタイ女性の志向を踏まえて作った「HASU ジェルクリーム」の価格は1200バーツ(約3600円)。タイでは高級品に属するが、タイ人は日本製品への信頼が厚い。成分にこだわり、高級感を演出し、アッパーミドル層をターゲットにすれば、価値は伝わるはずだと踏んだうえでの強気の設定だ。

販路開拓は追い風が吹いた。12年3月、製品が完成した直後に、ドラッグストアチェーンのツルハドラッグがタイに進出し、7月に1号店を開くことを知った佐藤氏は行動に出た。

「札幌の本社にいきなり電話し、それからタイのオフィスに営業に行きました。『1000バーツを超えたら難しいよ』と言われましたが、なんとか営業成立。現在は15店に増えたツルハドラッグ全店に導入されています。幸い、発売当初から好評を得ることができましたが、競争が激しいので、いまの地位を維持するのは簡単ではないですね。無名のブランドですし、広告宣伝をする余裕もない。私にできるのは、店を頻繁に回り、お客さんの目にちゃんと商品のよさが届くよう売り場のサポートを行うことです」

バンコクにあるツルハドラッグ1号店をのぞいてみた。日本のドラッグストアそのままのラインアップとディスプレーの中に、「HASU ジェルクリーム」のコーナーがある。商品の向きもすべて同じで、POPも見やすく付けられている。丁寧にメンテナンスしてあることは一目瞭然だ。商品のクオリティだけでなく、こまめに手をかけた売り場演出がメードインジャパンのコスメの存在感をより際立たせているのだろう。

「ある程度、所得が上がってくればベトナムなど他のアジアの国でもチャンスはある。でもまずは知名度を上げて、ラインアップも増やすのが先。息の長いビジネスに育てていきますよ」と佐藤氏。和僑には堅実さと貪欲さが同居している。

(撮影=三田村蕗子)
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