年々人口が減少の一途を辿る日本にいると、「マイナス成長」が当たり前のように思えてくる。しかしながら、世界に目を転じれば、「成長のポテンシャル」を持つ国々が溢れている。タイで、ビジネスチャンスを見つけた人たちを追ってみた。

息子と一緒に売る「シャワー式トイレ」

マーケットの「欠落」に着目しただけでなく、徹底的なローカライズで新しい価値を創造し、タイ人のライフスタイルを変えつつある和僑もいる。08年に「ハッピートイレット社」を設立した成田博明氏(57歳)だ。伝統的なハンドシャワー(お尻を洗うためのホース)からシャワー式トイレへ。成田氏は、タイのトイレライフの劇的な変化を牽引している。

ハンドシャワーでは物足りない。日本と同じようにタイでもシャワー式トイレを使いたい。この極めて個人的な動機が、タイ産の健康食品の輸出業を営んでいた成田氏を第2の起業へと駆り立てた。

「大学卒業後、富士ゼロックスに勤めましたが、いつかは起業したいという夢があり、39歳で早期退職制度に応募しました。タイに関連するビジネスを選んだのは、社内留学制度で滞在したタイの暖かさやタイ人の人柄のよさに魅了されたからですね。チェンマイ北部山岳民が古くから食用としていたプエラリアミリフィカという植物の女性ホルモン様作用に着目した健康食品。この事業が軌道に乗ると、次のビジネスを考えるようになり、思い立ったのがシャワー式トイレです。当時、日本から持ち込んで使用していましたが、どのメーカーのモノもよく壊れた。電圧の関係上、降圧トランスを使用する必要があり、電圧も安定していなかったため、半年ごとに日本から調達しなければならず辟易していたんですよ。周囲の日本人に聞くと同じような不満が多い。これはチャンスだと考えました」

トラブルが多発する理由の大半は、タイのトイレの環境と電圧にある。トイレが完全に個室化されている日本と違って、タイではシャワーとトイレが同じスペースに設けられていることが多く、電圧も日本の倍以上の220ボルト。便器に水がかかれば、部品が動かなくなるどころか漏電や感電の危険性もある。