新聞の重量で不安定になった自転車をこぎながら、町の中を2時間半走り回る。時にはエレベーターのない団地の階段を5階まで上らなくてはならない。一緒に5階まで上ろうとするも、岸田君の足の速さについていけない。ようやく3階に達したころ、岸田君はドアの郵便受けに新聞を入れ終え、階段を下りてくるという始末。階段を下りると、呼吸を整える間もなく、そのまま次の配達先を目指して自転車にまたがる。
取材初日から2日目、大阪では冬の夜に冷たい雨が降っていた。自転車のハンドルを握る軍手に水が染み込み、指先の感覚が薄れていった。
「ごめん。ちょっとオシッコ」
コンビニに駆け込み、用を足す。体が冷え、トイレが近い。2人で肉まんをほおばり、体を温める。
午前5時半に朝刊の配達が終わると、朝食をとり、7時から仮眠。9時頃に大学へ行き、授業を受ける。授業が終わると、午後2時すぎに少し遅めの昼食。そして午後3時から夕刊の配達が始まる。
「夕刊はチラシが入らない分、朝刊に比べて楽な作業です」
午後5時に配達を終えると、契約切れが近い家庭を訪問し、購読継続の案内や集金の業務が待っている。
「お年寄りのいる世帯は早めの時間に、一人暮らし世帯は土日や遅めの時間帯に回ります。不在で無駄足に終わってしまうことも多いのですが、在宅時間などの勘所は2年目くらいからつかめてきますね」
狭い路地を行ったり来たりしているうちに、あっという間に日が暮れる。帰宅は夜の7時ごろ。夕飯を食べ、お風呂に入り、11時には床に就き、午前2時には起床。これが大まかな生活サイクルだ。
仕事を終え、部屋に戻り缶コーヒーで体を温める。岸田君はスパゲティをゆでてくれた。2人でフライパンから直接スパゲティを箸でつつき、テレビ番組を見ながら、リラックス。
「カネヤン、初日で疲れたやろうから、ゆっくりしとってな」
床に座ると1日の疲れがどっと出る。太ももが酷く張っていた。寝る前に取材メモを残すのが精いっぱいで、それ以外に何かする気力はなかった。眠ることの幸せを感じて布団にくるまる。夢を見る余裕もなかったらしい。目をつぶった次の瞬間には朝刊配達の時間が来ていた……。