最終日、いつものように朝刊の配達を終え、販売店の伊藤知展代表に挨拶に向かう。
「カネヤン、1週間よう頑張った。最初の1週間は本当にキツい。ここを乗り切れた経験は忘れんといてな」
伊藤代表と直接話す機会はあまり多くはなかったが、岸田君を通じて、悪天候や体調について気遣ってくれていたと後になって聞いた。
別れ際、こんな質問をしてみた。
「岸田君が今後、裕福になったとして、子供に新聞奨学生をやらせる?」
「そうですね……。強制はしないですが、やってほしいです。きっとそのほうが子供のためにもなるから」
家庭の経済的事情で大学進学を断念する人は多い。日本学生支援機構の奨学金制度はあるものの、就職難により返済が滞る例も少なくない。
しかし、若者を取り巻く環境は悲壮感ばかりではない。岸田君は奨学生の後輩たちの前でこう語った。「皆もぜひ、新聞の新規勧誘や営業活動に挑んでほしい。確かに、時間的にも体力的にも苦しいかもしれない。でも、これだけ苦しいのだから、もう一つ二つ、追加で苦労してもあまり変わらない。ここで営業スキルを身につけておけば、今の頑張りは社会に出てから必ず返ってくる」
毎朝届く新聞を見るたびに岸田君のことを思い出し、鏡に映る自分に気合を入れ直して家を出る。私も負けてはいられない。
(干川 修=撮影)