3日目の朝、体が動かなくなった。
「カネヤン、朝やで」
遠くで岸田君の声は聞こえるのだが、少し気を抜くと意識が遠のいていく。気づくと昼を過ぎていた。
「起きましたか。朝刊の配達は終わったので、夕刊までゆっくりしといてください」
あとから聞いた話によると、一度起き上がったものの、倒れるように寝てしまったらしく、万が一を心配して部屋に残してくれたそうだ。
「自分も最初のころは、配達を飛ばしたり(配達に行かず、シフトに穴をあけること)、配達先のエレベーターで座り込んで寝ていたこともあります」
新聞奨学生はこの生活を4年間続け、社会へと巣立っていく。現在、読売奨学生は東京で約400人、大阪で42人いる。休みは週1日。
制度の概要は、
1.通う大学の近くの新聞販売店に所属し、新聞配達、集金業務を行う。
2.卒業までの4年間で累計約380万円の奨学金を給付。返済は不要。
3.年2回特別奨学金が年次によってそれぞれ6万~12万円支給。
4.奨学金とは別に毎月の給与が約15万円。
5.住宅についても手厚い補助あり。
勤務の面で通常の学生のアルバイトと違うのは、新聞販売店の一スタッフとして責任のある行動を求められる点だ。仕事に穴をあけると、代わりの人が配達をせねばならない。“テスト前だから休む”というわけにはいかないのだ。
「体調管理も大事な仕事です。遊びたいときでも、ゆっくり休んで明日に備えなくてはなりません」
こう語る岸田君は大阪府八尾市出身。実家は理容店を営んでいるが、その家計は楽ではなかったそうだ。
「派遣のバイトで工場のライン作業などもやりましたし、受験直前の12月は精肉店でお肉をパックに詰めるバイトをして受験費用を貯めました。親からは大学には行かずに働いてほしいと言われたこともあります。でも、大学に行って身につけたいことがあった。そこで高校3年生の春、学校の先生に相談して紹介してもらったのが、新聞奨学生でした」