エグゼクティブチーフエンジニアの片山英則は「ミライース以降、ダイハツにとって低燃費は商品開発の原点の一つです。スーパーハイトであっても、燃費はお客様の購入動機3位には入ります。エッ、N-BOXですか? こちらが開発している間に大ヒットしたわけで、意識せざるをえなかったし、我々の危機感は大きくなった」と話す。
苦労したのは空力だ。「タントをさらに進化させるにあたって、今回フロントのウインドーを立ててボクシーにしているんです。だからといって、燃費を犠牲にするわけにはいかない。この二律背反をどうするのか、毎日毎日やり合っていました」。
空力の数値目標をセダン型と同レベルに設定し、同社では初めて風洞を使って開発が進められた。
「モックを置いてこっちで1ミリ、あっちで1ミリと、調整していきました。本当にできるとは、心の底ではちょっと……。でもやってくれました」
スーパーハイトの燃費性能を上位から並べると、13年3月発売のスズキ・スペーシアが29.0キロ、片山たちの3代目タント、14年2月発売の日産「デイズルークス」および三菱自工「eKスペース」の26.0キロと続き、N-BOXは25.2キロで最下位。だが、13年の販売台数トップは、N-BOXの23万4994台だった。
自動車メーカーのマーケ担当者は「N-BOXは環境性能ではなく、“走り”とデザインで成功させた。ホンダは環境に優しい会社と謳っているが、どんなときでも燃費よりも走りを優先させる車づくりは、ホンダの特徴。N-BOXは登録車から軽に乗り換える男性ユーザーを取り込み、ヒットした。主婦と違い、男性は燃費が購買動機にならない」と分析する。N-WGN開発責任者の人見康平も「フィットからN-BOXに乗り換える人は多い。フィットも伸びているが」と言う。
空力特性を向上させるなど燃費性能に長けた3代目タントは毎月、N-BOXと首位攻防を繰り返している。
(文中敬称略)