軽自動車メーカーが繰り広げる激しい低燃費競争。抜かれては抜き返しの裏に、各社技術陣のどのような努力があるのだろうか。

(※第1回はこちら http://president.jp/articles/-/12310)

ハート・ツー・ハートの共同開発

スズキの次世代環境技術は「スズキグリーンテクノロジー」と呼ばれるが、中心技術はエネチャージだろう。

スズキ 沼澤正司 
1986年入社。四輪ボディー設計部などを経て、2012年4月から第一カーラインチーフエンジニア。

減速時に発電して、東芝製リチウムイオン電池「SCiB」と鉛電池に充電され、その電気はカーナビやエアコン、ライトなどの電装品に使われるシステムだ。走行中にアクセルから足を外すとエンジンへの燃料供給は止まるが、タイヤとつながっているエンジンは慣性で動き続ける。従来は捨てていたこの力を利用してオルタネーター(発電装置)を回して発電する仕組み。ガソリンが発電に使われなくなり(エンジンの発電負荷がほぼなくなり)、燃費性能は格段にアップした。ワゴンRのほか、35キロのアルトエコなどにも搭載されている。

スズキ 本田 治 
1949年生まれ。73年入社。チーフエンジニアを経て2006年常務、09年専務、11年より副社長に就任。四輪技術本部長。

スズキと東芝との共同開発は、2年以上に及んだとされるが、スズキの鈴木修会長兼社長は12年夏、筆者に「環境の時代を迎え、業界を超えたハート・ツー・ハートは大切になる」と話していた。スズキは70年の大阪万博の開場に「キャリイ」のEVを走らせたのをはじめ、92年にアルトEVを試作し、02年には2人乗り軽「ツインHV」を商品化した。いずれも鉛電池だったが、電気をマネジメントする取り組みの歴史は長い。東芝にしても、SCiBは一時期存亡の危機に立っていたが、スズキの採用により一大ビジネスに成長しつつある。

ライバル自動車メーカーの技術者は、「リチウムイオン電池は高価なので、多くの車種に搭載させ大量に使う必要がスズキにはある。ただ、安全面に不安はないのか」と指摘する。

副社長の本田は「採用の決め手はSCiBの安全性の高さでした。熱暴走はなく、釘を刺しても危険な状態になりません」と話す。大半のリチウムイオン電池の負極材料はカーボンだが、SCiBはチタン酸リチウムなのが特徴で、三菱「i-MiEV」やホンダ「フィットEV」にも採用されてきた。