その一つは、まだ20代の頃。その夜、5歳年上の先輩から「飲みにいこう」と誘われ、ホイホイとついていった。仕事に自信と充実を覚え始めていた人見は、「先輩は自分を慰労してくれるのだろう」と勝手に考えていた。ところが、飲み始めてしばらくすると、先輩は突然言い放った。
「おまえはダメな奴だ。今のままじゃ成長しない。例えば土日は何をしている? ライバル車を見にいっていないだろう」。予想外の叱責に酔いが醒めてしまう。そして、心の中で人見は叫んでいた。「何を言い出すんだ。俺は慶応の院卒だぞ。あなたは工業高校卒じゃないか。年は上でも、あなたに俺を叱る資格はあるのか」と。
以来、先輩を避けるようになる。しかし、先輩の指摘は正しかった。週末に他社のディーラーに足を運び、競合車を観察すると学ぶことは多かったのだ。「満足してしまうと人は成長しないし、苦労を重ねないと先頭には立てないのです。ありがたい叱責でした」。
こう話す人見は、メンバーたちに「カタログ燃費ではなく、実際の燃費でジャンルのトップを取れ。メーンのハイトワゴンで勝ち抜くには燃費は正義だ」と檄を飛ばし続けた。
ハイトへの投入がスーパーハイトよりも後になったのは、「ライフがあったため」と人見は説明する。前述したが燃費は29.2キロでイースには届かなかった。11月22日に発売され1月末までで、受注台数は5万台を突破したという。ただし、大手部品メーカー首脳は言う。「ホンダはN-BOXやフィットなど大型商品を開発できる一方で、販売台数を伸ばすためB登録(販社が自社名義で購入し登録する自社登録。軽は届け出)を平気でやる体質を持つ。新古車が溢れると、販売現場は混乱する。来年度の国内販売目標103万台を達成するため、軽がB登録されるのではと不安だ」。