エネチャージを搭載し、現在ヒットしているのがスズキが1月に投入したSUVと軽ワゴンとのクロスオーバー「ハスラー」だ。発売から10日の時点で、契約書を交わした受注が2万5000台を超えた。ちなみに販売目標は月5000台である。
開発責任者である第一カーラインチーフエンジニアの沼澤正司は「“遊び”をコンセプトにしてますが、高い燃費性能は必須。エネチャージという革新技術があることは、スズキの強みです」と話す。ハスラーの燃費は29.2キロ。沼澤は車体設計出身で、開発責任者として初めて手掛けたのがハスラーだった。開発期間はほぼ2年。「燃費を向上させるための空力特性と、高い自由度のデザインとのバランスをどうとるのかで苦労しました。ブレたら失敗すると自分に言い聞かせてました」と沼澤。木訥とした人柄に、雪国の山形県人らしい芯の強さが滲む。
もっとも、本田の指示でデザインを最初の頃のものに戻す一幕もあったようだ。燃費を優先するあまり、個性が喪失されると車の価値もなくなってしまう。「車にも立ち居振る舞いを伴う表情がありますから」(本田)。
「言い訳はするな!」ホンダの鬼リーダー
ホンダN-WGNの開発責任者、人見康平は厳しいリーダーだ。
「ミライースと同じ燃費性能にするんだ」
「無理ですよ。ボディーサイズが違いますから……」
「言い訳はするな。僕をお客様の代表だと思って、創意工夫せよ。超えなければならないんだよ」
ほぼ2年間の開発期間中、人見はメンバーに厳しく接し続けた。それは、ワゴンRとムーヴという軽自動車の2大ブランドと競わなければならないという理由だけでもないようだ。
84年に入社し、ドアや外装をはじめとするボディー設計を長く歩んできた人見は、先輩や上司とのやり取りで、いくつもの忘れられないシーンを持っていた。