先ほど期首に給与の金額を決めておくといったが、これはそうする必要があって、一度決めた金額は期中で変更できない。

「今年は儲かりそうだから給料を増やして会社に利益を残さずに、法人税がかからないようにしよう」ということができると、利益操作になりかねないからだ。しっかりと業績予想を立て、それに基づいて給料の額を決めておくことが重要になる。

さて、政府は、一人オーナー会社の社長の給料を全額費用としては認めずに、そこから給与所得控除分を差し引いた金額を費用として認めるように検討しているようだ。法人税の課税対象が増えて、税収増を見込むことができると考えたのだろう。

しかし、これには別の問題もあるように思う。会社側は税制度が変わると、会計や税務のシステム変更を迫られ、大企業ならともかく、中小企業、零細企業にとって、少なくない負担がかかってくるからだ。実は2006年にも同様の見直しが行われ、4年後に現在の形に戻された経緯がある。たびたび税制が変わったのではたまらない。

確かにオーナー会社社長の給与所得控除のあり方には、議論の余地はあるようだ。しかし、個人が会社組織化する道を広げる意義もあるように思う。

たとえば、個人事業主が会社を興すのには、事業を拡大するための資金を調達しやすくする目的がある。その一方、会社は会社で相応の事務負担やコストがかかる。わずかとはいえ、所得税の節税というメリットがなくなれば、起業に対するモチベーションが下がりかねない。

一人オーナー会社の起業といえども、将来的な雇用創出につながり、国を挙げて支援する意義はある。今回のような措置が、新たな起業意欲を削ぐ流れに向かわないことを願いたい。

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)
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