昨年の暮れ近く、政府・与党が「一人オーナー会社」への課税強化を検討中という興味深い一部報道があった。一人オーナー会社とは、株主や出資者が社長1人、ないしは社長とその親族が株の9割以上を保有する会社などで、従業員を雇用している会社もある。
課税強化の是非を論じる前に、一人オーナー会社と個人事業者の課税の違いを整理しておこう。
まず、個人事業主のAさんの場合だが、売り上げ1000万円で、費用などが300万円なら、差し引き700万円がAさんの所得になる。そして、ここから扶養控除や生命保険料控除などを差し引いた金額が課税所得(課税対象)となる。
では、Aさんが一人オーナー会社を興して、社長になったらどうなるだろう。
個人事業主だったAさんの所得は700万円だが、会社組織化にともなって、Aさんは期首に自分の給与の金額を決めておく。仮に個人事業主だったときの所得と同じ700万円にすると、「1000万円-(700万円+300万円)」で会社に利益が残らないので、法人税はかからない。また、Aさんは給料の700万円から扶養控除や生命保険料控除のほか、「給与所得控除」を引くことができる。
給与所得控除とは、「会社員にも“働くための経費”がかかっていて収入から差し引いていい」という意味の控除のこと。個人事業主は会社員ではないため給与所得控除は使えないが、一人オーナー会社にして給与という形にすれば、給与所得控除が認められるのだ。ちなみに現状では、高額給料の給与所得控除に一定の上限がある。
給料が700万円の場合、給与所得控除額は190万円。所得税率が20%なら「190万円×0.2」で38万円ほど所得税が軽減される。Aさん個人の収入は、個人事業主でも、一人オーナー会社の社長でも同じ700万円だが、一人オーナー会社のほうが税負担は軽いのだ。