法人税の減税についての議論が盛んになっているが、一つ忘れてはならないことがある。それは、赤字が生じた場合に翌期以降最大9年間、黒字から赤字分を差し引ける「繰越欠損金」という制度の存在だ。
具体的にいうと、資本金1億円以下などの条件を満たす中小企業は繰越欠損の全額を課税所得から控除できる。それ以外の大企業などについては、繰越欠損金が課税所得を上回っていても、その80%までの控除が限度となっている。
たとえば、中小企業で150万円の赤字(税務上の繰越欠損金)が出たとしよう。翌年、100万円の黒字が出ても前年の150万円の赤字から100万円分の黒字を相殺することで、課税所得はゼロとなる。結果、法人税はかからない。さらに、控除し切れなかった50万円の欠損金は、その翌年以降の黒字から控除できる。
読者の皆さんは、黒字の年まで法人税がかからないことに違和感を覚えるかもしれない、しかし、次のケースを考えれば、制度の合理性が理解できるはずである。
A社は1年目に損失を100万円出したが、2年目には100万円の黒字になった。2年通算で考えると利益はゼロ。しかし、繰越欠損の制度がないと、2年目には法人税を支払わなければならない。実効税率が30%とすれば、「100万円×30%」で30万円である。
一方のB社は、1年目も2年目も利益ゼロで同じ。当然、繰越欠損金の制度がなくても、2年目も税金はかからない。つまり、2年通算すると利益ゼロなのは同じなのに、繰越欠損の控除が認められないと、A社だけ2年目に納税することになり、不公平になってしまう。このような不都合が起きないように、繰越欠損金の制度があるのだ。
起業からしばらく赤字が続いたあと、やっと黒字に転換するという企業は多い。単年度の利益だけをベースに課税すると、「ようやく黒字になったら法人税をごっそり持っていかれた」ということになって、起業意欲を損ないかねない。